第34話 地下都市のとある少女の話

 時は、空中都市ゼウスが地上都市パンドラに宣戦布告をする丁度3年前に遡る。


――――場所は地下都市土蜘蛛

 1000kmの地下にある都市。


 複雑に迷路のように入り組んでいる。

 地下には動物や植物も水も存在する。

 最低限の生活は出来るようになっているのだ。


 100kmには第一層、200kmには第二層、300kmには第三層――――。

 という風に100kmごとにそれぞれ層が分かれている。


 第一層、第二層、第三層は人々の家や教育機関など人々が生活できるようになっている。

 第四層は家畜や稲など第一産業を中心に栄えている。

 第五層は第二産業。

 第六層、第七層は国家機関を中心にした組織が存在している。


 ここからは第八層、第九層、第十層と続いているが、何があるのかは未だ謎である。


「おい、起きろ」

「んん……」

 目を覚ますと、ルルの黒い瞳がアタシの顔を覗いていた。


「もう、なに?」

 ぼんやりとした頭で前を向くと、目の前には丸眼鏡を掛けた女性教師が立っていた。

 うちの学校で眼鏡を掛けた女性教員なんてミル先生しかいないわけだけれど。

「げ……」

「アイ……。貴方はまたそうやって授業中に居眠りばっかりして!!!! 今日という今日は許しませんからね!!」


 私は廊下で両手にバケツを持たされて立たされていた。

 もう、こんなことをする必要全く無いのに……。


 何が錬金術なんだろう。

 そんなの学んでも何の意味もないのではと私は思う。


 でも、そんな修練も今日で終わり。

 明日に習得式がある。

 単位はもう既に取っているから、それにさえ出ればこっちのものだ。


 あとは、就職するなり、学者になるために学校に残るなりすればいいだけ。

 そんな余裕な気持ちで私は当時、この時は考えていた。

 この時までは……。


 数十分後、授業が終わり、私はミル先生に呼び出された。

 当然の如くアタシは叱られた。

「お前な、勉強が出来るのは良いが、卒業後はどうするつもりだ? まあ、アタシは受験勉強や就職をする奴の為に一年の猶予を与えているわけだが、だらだら決めていては駄目だぞ。何事も本気で取り組まなければそれに見合ったものは付いてこない。結果だけではない。内面もだ。そこでだ、お前、こういうのは興味あるか?」

 ミル先生は一泊置くと、


「お前、虫退治に興味はあるか?」

「虫退治……ですか?」

「ああ、そうだ。虫退治だ。でも、唯の虫退治ではない。鉄の虫だ。鉄で造られた害虫だ。それを排除する仕事だ」

「そ、そんな汚い仕事したくないですよ」

 そんな虫を殺すなんてことをなんでアタシがしないといけないの。


「あ、でも、虫を殺すと言っても、機械の中でだけだけどね。君には《指揮官》を担当してもらいたい。君、頭良いしね。あ、ちなみにルル君も一緒だよ。あの子は指揮官では無くて、《執行人》だけどね。まあ、そんなに心配いらない。君もあの子と一緒にいた方が一人より良いだろう」

 彼が行くなら、アタシもいってみようかなと思う。


「彼も君と一緒にいる方が良いだろう」

 暫くその場で考えてみる。


 先生の言っていることの意味が殆ど分からない。

「あの……質問をしていいですか?」

「うむ。なんでも質問してみたまえ」


「まず、一つ目。具体的に何をするのですか? どう考えても、まともな仕事ではない気がするのですが……」

「確かに、まともではない。でもな、彼らがいなければ世界は回らない。世界を作り上げることが出来ない。君、世界の謎を解き明かしたくないか?」

「世界の……謎?」

「そうだ。その組織はまあ、正直に言えば秘密裏にことを進める言わば裏の仕事だ。でも、そこだからこそ手に入れることの出来る情報がある。君の夢は確か『賢者の石』を見つける場所だったね」

「は、はい」

 先生の言葉に戸惑いを感じながら私は答える。


 その通りだ。

 私は『賢者の石』を見つけるのだ。

 見つけて、お母さんとお父さんの悲願を果たすんだ。


 先生はにやりと口角を上げて、

「その『賢者の石』が存在する情報をその組織では手に入ることが出来ると言ったらどうする?」

「え……?」

 一瞬、アタシの中の時が止まった。


 これは願ってもないことだ。

 お母さんとお父さんが求めていたもの。

 これは、アタシの悲願でもある。

 それなら……。


 それがどんなに危険なものでもやるしかない。

 やってみせる価値はある。

「先生。アタシ、その仕事をします」


 アタシは気が付くとそう、言葉を発していた。

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