第35話 《賢者の石》と《鍵》
どことも知らぬ場所にアタシは連れて行かれた。
第1層から第6層のどことも違う雰囲気。
恐らく、ここは、第7層から第10層のどこかの階層なのだろうということは容易に想像出来た。
でも、どこの階層なのか。
階層のどこの部分なのかまでは分からない。
アタシは、施設みたいなところに連れていかれて、そこで2年間勉強をさせられた。
主に勉強するのは、『軍事戦略』、『軍、戦争の歴史』、『錬金術』等々の戦争のものばかりだった。
時には、自動人形ホムンクルスを使った戦闘の実習も行われた。
共に2年間勉強をしたのは、アタシを含めて30人より少し多いくらいの人数。
言ってみれば、1クラス分の人数だ。
アタシ達は《指揮官》と言われる存在として教育された。
土や金属から造られた《召使い》に指令を出す人達のことだ。
アタシ達錬金術師は、そうやって物に疑似的な命を吹き込む力を持っている。
それには、疑似心臓ハート・マキナが必要だ。
それが無いと自動人形ビスクドールは動かない。
テストももちろんあって、半年に一回行われる。
不合格になったら補習か再テストをすることになる。
それを無事合格して抜けることが出来たら良いのだけれど、不合格になった子はどこかに消えてしまった。
二年後には、30人いた同級生も10人ちょい超える人数しか残っていなかった。
その間、ルルと会うことは一度も無かった。
一緒にいるって先生は言ったのに。
どうして……。
そうこうしているうちに、天空都市ゼウスが地上都市パンドラに宣戦布告をしたという情報が入って来た。
その日、教官が教室に来てこんな事を言った。
「良いか。お前たちが今まで訓練してきたのはこの日の為だ。我々は必ず《賢者の石》となる根源。《鍵》を見つけ出さなければならない」
教官はそう言って、目の前のスクリーンが映像を映しだした。
そこに映し出されたのは、一人の女の子だった。
流れるような綺麗な銀髪の女の子。
一言で言えば妖精だ。
薄い桜色の唇に端正な顔。
乳白色の透き通るような肌。
とても人間には見えないくらいに綺麗な少女だった。
「良いか。これが今回我々の追う『鍵』だ。こいつはただの人間ではない。いや、こいつは人間では無い。よく聞け。人の形をした《化け物》だ。こいつはまだ世界が一つだった頃に造られた自動人形ビスクドールなんだ。遠い遠い古代のね。こいつを造ったのは当時の世界的な魔術研究家や魔術エンジニア達。こいつは《賢者の石》への道を示してくれる力を持っていると言われている。今回の作戦はその《鍵》を
捕まえることだ」
ついに、ついにこの日が来た。
《賢者の石》の手がかりを掴める日が。
でも、それを一体の自動人形ビスクドールが担っているだなんてどういうことなんだろう。
手を挙げてみる。
「どうしたんだ?」
「先生。何で《鍵》は《賢者の石》への道を示してくれるのですか?」
「ふむ。良い質問だ。彼女は《人類が造った最強の自動人形ビスクドールとも言われているんだ。何かそのこととも関係いるのかもしれない。私は知らないが」
教官は咳を一つ吐いて、
「良いか。これから天空都市ゼウスと地上都市パンドラとの間で戦争が始まる。それに乗じて我々はこの二つの都市のどこかにある《鍵》を見つけ、奪還する。それが今回の目標だ。初めての作戦にしてはかなりハードだが、頑張って欲しいと思う」
教官からの言葉はそれだけだった。
あとはアタシ達は休憩室に戻って、作戦の指令を待つだけだ。
そうか。
これから戦争が起きるのか。
私達はそこで盗みを働こうとそういうことだ。
そういうことをするのだ。
それでも、《賢者の石》を見つけることが出来るのならそれでいい。
それで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます