第28話 訓練

 怪我が完治した後、マックウェー中佐にとある場所に呼び出された。

 そこは僕たちのいる施設の奥にあった。

 部屋の中に入ると、周囲の五面に花緑青色の壁に包まれていた。


 これは、結界だ。


「あの、ここで一体何をしようって言うんですか」

 そう尋ねたら、彼から返って来た言葉はこんなものだった。

「君は、力がない」

「え……?」

「君は未熟だ。心だけでは、勇気だけでは人を助けることは出来ない。人を助けたいと思うのなら、救いたい人がいると言うのなら、君は力をつけるべきだ」

 彼は、どこから取り出したのか、光輝剣ライトソードを二つ取り出して、俺の方に投げつけた。


「今日からそれで稽古を付ける。他にも色々練習メニューはあるが、まずはそれからだ」

「え?でも、これで人を斬り付けたら……」

「死ぬと? 怪我をしてしまうと言うのか? 金石。でもな、それで俺たちが斬り合った所で怪我は一人もしない。いいか。本気で、殺す気で掛かって来い。そうでないと、これからする素振り、腕立て、腹筋、背筋を100回ずつ増やすぞ」

 ひ……ひゃっかい!?

 な、なにを考えているんだこの人は!!!!


「そ、そんなこと出来るわけ……」

「出来ないのか!!!!」

 怒涛の空気が叫び。

 空気が振動する。


「っ……」

「お前には守りたいものがあるはずだ。その為には力がいる。覚悟もいる。お前にその覚悟があるのか!!」


 ゴッ!!

 地面を蹴る音。


 風切り音と風圧。

 次の瞬間、右側のこめかみに衝撃が走る。


「ぐはっ」

 体が左へ吹っ飛ぶ。


「ほらほら! 守らないと死ぬぞ!!」

 ――――真紅の剣閃。

 反射的に光輝剣ライトニングソードを横に振る。

 赤い火花が飛び散る。


 地面の上に転がる。

 くそ。

 痛い。


「どうした。来い」

「く、くそっ」

 剣を構え、猛進する。


「てやぁぁぁぁ!!」

 剣を大きく振り被り、一気に振り下ろす。

 単純な攻撃。


 僕の攻撃は容易に受け止められ、柄頭で剣を握っている拳に叩きつけられる。

「ぐ、ぐわぁ!!」

 激痛が走る。

 あまりの痛みに剣を離す。


 く、い、痛すぎる。


「なるほどな。今ところ、お前の実力はこんなものか。まだまだだな。どうやら、威勢は良いようだが、技術が無い。もしやとは思ったが、やはりその通りだったか。よし、型の特訓も加える。ビシバシいくから付いて来い!」

「は、はいっ!!」

 痛む手を押さえながら返事をした。


「今回の件で分かっただろう。自分の実力が。自分がどれだけ弱い人間なのか。人型魔装兵器ホムンクルス人型超感覚的知覚兵器サイキッカーの基本操作は同じだ。でも、どうせ操作するのは機械なのだから、自分の体を鍛える意味はないと思わないか?」

 ここは正直に答えた方が良いと直感した。


「はい。そう思います」

「だろう? では、何故己を鍛える必要があると思う?」

「そ、それは……」

 正直、今の僕では答えられない。

 いや、この解を見出すことは出来ない。


 代わりにマークウェー中佐が答えてくれた。

「良いだろう。己の体を鍛える意味をお前に教えよう。それは、ズバリ!! 生き残るためだ」

「生き残るため?」


「そうだ。実践では確かに、人型魔装兵器ホムンクルスや人型超感覚的知覚兵器サイキッカーを使って戦う。が、その基本となるのは日常でどれだけ基礎戦闘能力があるか。基礎体力があるかだ。考えてもみろ。人型魔装兵器ホムンクルスや人型超感覚的知覚兵器サイキッカーの基礎的な動きは人間が基本だ。外装もな。そうなれば、近接になろうが遠距離になろうが、純粋な戦闘能力が高い方が有利になるのは当然なことだ」

 たしかにそうだ。


 頷きながら、マークウェー中佐の言うことに強く同意する。

 彼の言っていることは、理に適っている。


 だから、

「体力をつけて強くさせようと言うことですか」

「うむ。そういう事だ。特訓は明日から始める。今日はゆっくり休め」


「え? でも、腹筋と背筋と腕立て伏せは……」

 彼は一瞬キョトンとしたが、

「あ、ああ。あれか。あれはお前を本気にさせる為に言っただけだ。気にするな」

 体力馬鹿と思っていたが、意外な策士だ。


 明日。

 明日からかぁ。


 キーを助ける為だ。

 頑張って耐えるしか無い。

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