第23話 導き手

 何かがある気がした。


 その声の方へ行けば、何かが見つかる気がした。

 その『何か』は僕にとって見たら、光のように感じた。


 一つの道標だ。

 誰もいない廊下の中をひたすら前進し続けた。

 その光に向かって突き進むだけ。


 その偶像を僕は追いかける。

 何処に行くのか。

 そこが地獄なのか、天国なのか、はたまた別の異界なのか――――。

 そんなのは僕にとってはどうでもいいことだ。、


 そこがどこかだなんて俺からしたら大して問題ではない、

 問題なのは、彼女がいるのかどうか。

 きちんと彼女の『人権』があるのか、人として扱われているのかどうかということだ。


 彼女がアンドロイドだとか、兵器だとかは関係ない。

 たしかに、周りの人とは少し――――いや、かなり違うかもしれないが、彼女だって人間だ。

 最初に会った時、僕は思った。


 彼女は一人の女の子なんだと。

 一人の人間であり、少女なのだと。


 それが許されないなんて、可笑しい。

 間違っている。


 唇を噛み締めて前進する。

 光の差す方へ、希望の道へ――――。


 と、その時警報が鳴る。

「な、なんだ!?」

 直後、揺れが発生した。


 地震か!?

 周囲から兵が飛び出して何やら騒いでいる声が聞えた。


「敵襲だ!!」

「急げ!! 早くコックピットに乗れ! 人型魔装兵器ホムンクルスだ」

「一体、どうやってこの国に攻めて来たんだ!? 結界が張ってあるはずなのに」

「最新の赤外線センサーや超音波レーザーもあるはずなのにな」

 とか色々。


 僕にとっては好都合だ。

 この混乱に乗じて抜け出そう。


 十字路に隠れて、彼等の後を付いていく。

 彼らが着ているのはだ。

 ということは、この先に人型魔装兵器ホムンクルスが収納されている倉庫に行くはずだ。


 彼等の後を何とか付いていく。

 足が痛い。

 なんてことをほざいている場合じゃない。


 廊下を走る。

 目の前に大きな扉が立ち塞がる。


 センサーが認識、作動して扉が開く。

 そこへ兵たちがぞろぞろと入っていく。

 隙を見つけて俺も入る。


 それぞれ自分たちの機体のコックピットに入っていく。

 レールを使って順に発射していく。


 落ち着いた頃を見計らって、倉庫の中を歩いてみる。

 その中には一つだけ人型魔装兵器ホムンクルスとはまた別の大型兵器があった。

 ――――一番奥。


『おいで。君を絶望の道へ、希望の道へ連れて行ってあげよう』


 引き寄せられるかのように。

 紡がれた糸のように。


 僕とその白い装甲に身を包むその機体は、俺の名を呼ぶ。

 所々に埋められた半透明の水色をしたプレートが光を反射する。

 綺麗な湖のような色だ。


 コックピットが開き、その中に入る。

 薄緑色の電子画面が360度展開される。


 こいつがどう動くのか俺は知らない。

 でも、キーを助けるためにこいつは必要なんだ。

 だから……。


「力を貸してくれよ」


『仕方があるまい。其方に力を貸そう。其方からは邪悪なオーラは感じないからの』

「だれだ!?」

 何処からともなく声が聞えてきた。


『今は知らなくていい。子羊よ。地獄を行く覚悟はできているのか』

 誰かはしらないけれど、

「そんなもの。とっくに出来ている。キーの為ならどんなことでもしてみせる」

『それが例え世界を滅ぼすことになっても?』

「ああ」

『その覚悟、いつまで続くのかしらね』


 その言葉を最後に幻想は途絶えた。


 いつまで?

 そんなの決まっているだろ。

 ずっとだ。

 彼女を救うまでずっと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る