第3話朝の天使
僕はいつの間にか机にうつ伏せになって寝ていた。
「ねぇ・・・起きて」
頭の中に人の声が響いた。
誰だろう。
鈴のような綺麗な声だ。
聞き覚えがある。
そう、最近聞いたばかりのような気がする。
「ねぇ・・・・ケント・・・朝・・・・・学校・・・遅刻・・する」
「たくっ、誰だよ」
瞼を開くと、目の前には見たこともない金髪の絶世の美少女がいた。
お人形のように整った顔に宝石を埋め込んだかのような黄金の瞳。
彼女の長い睫毛は上に少しカールしている。
フリルをふんだんにあしらった純白のワンピースが、彼女の陶器のような白い肌と良く似合っている。
まるで、ヴィーナスのようだ。
見たことあるな、この少女。
靄がかった記憶から何とか欠片を見つけ出す。
確か、昨日学校帰りにコンビニに寄って、帰るときに軍用兵器と生身の人間が戦っているのを見掛けて、それで——
そうだ!!
その時に、軍用兵器にこの子が乗っていたんだ!
確か、名前は・・・・・・
キー。
そんな名前だった気がする。
「キー。なんで、僕は昨日君と会ったんだよな」
金髪の少女は僕のベッドに上がって、僕の顔と彼女の顔とを近づける。
「ちょっ!? ち、近い近い近い!! 離れろって!」
両手でグイグイと彼女の肩を押して離れるように促した。
「こうすれ・・・ば・・思い出す・・・・と・・・思った・・のに」
金髪美少女は少し顔をむくれさせる。
「そういうの慣れてないんだよ」
お陰で昨日のことを思い出してしまった。
彼女の手を握って僕の家まで帰ったこと。
それから、彼女が普通の人間では無いこと。
なんだっけな。
自己防衛型魔術式システム【SDMS】、【解析アナライシス】、【Pandoraパンドラ】の3つのシステムが、ロストテクノロジーとロストマジックによって彼女の脳内に埋め込まれているとか言っていたっけ。
説明とか聞いていてもよく分からなかったけれど。
あー、なんか段々と思い出して来たぞ。
頭にかかっていた霧が晴れてきた。
そうだ。
この子は何者かに追われていたんだ。
何者なのかは分からないけど。
取り敢えず、朝ごはんを食べなくては。
「キー、朝ごはん何がいい?」
「甘い・・・ものが・・良い」
「甘いものねぇ」
お菓子——
なんて、そんなものを朝食にする訳にはいかないし。
そうだ!
子供の頃僕が好きだった目玉焼きならどうだろう。
あれなら、直ぐに作れるし、砂糖を入れるだけでいい。
居間と繋がっている台所に行き、冷蔵庫の中身を開ける。
「あった。これだな」
中から卵を3個取り出す。
台所からフライパンを取り出して、コンロに火を付ける。
ボッ、と点火する音がする。
卵をフライパンの上で1つずつ両手で割っていく。
2つに割った卵から黄身がとろりと流れ落ちる。
1個、2個、3個——
目玉焼きの焼ける音と共に蕩けそうな香りが漂う。
これに砂糖を加える。
ほんわかと砂糖の甘い香りが鼻の中を刺激して、僕の気持ちを安らげてくれる。
小さい頃——6歳位の時にお母さんがよく作ってくれたよなぁ。
頭の中で母の後ろ姿や、その時食べた目玉焼きの味が甦る。
「さてと」
つるつるの白身とふんわりと盛り上がった黄身がフライパンの上に表れる。
出来上がった卵焼きを、フライパンを傾けてそこの薄いお皿に移す。
「おーい。キー出来たぞ」
お皿を今にある机に持っていく。
金髪美少女の前に、ふわふわの目玉焼きが乗ったお皿を置いてやる。
「うわぁ〜〜!!」
彼女目をお星様のようにキラキラにさせて、今にも素手で掴んでかぶりつきそうな勢いだ。
彼女はフォークを持ち、大きな口を開けて目玉焼きを食べ始めた。
もぐもぐと目玉焼きを咀嚼する姿が可愛らしい。
こうして見ていると、本当にお人形さんか妖精みたいだなと思う。
本当に妖精だったりして。
なんちゃって。
「キー、少し話があるんだが。食べながらでいい」
彼女は目玉焼きを食べながら、純粋な瞳で僕の目を見つめる。
「ん?」
「これからお前はどうしていくんだ?」
「どうして・・・いく?」
「このまま僕の家にいるのか、他の場所に行くのかという事だ」
正直、僕の所から離れてくれるのが僕としては1番助かる。
だけど・・・・・・
「わから・・・ない」
「分からないってお前なぁ」
呆れ半分困り半分で大きな溜息を吐く。
「これはお前のことなんだぞ。お前を追っていた連中が何者なのかは知らないけど、お前の敵であることは確かだろ」
「私の・・・敵・・・」
金髪美少女は暫く首を傾げていたが、
「そう。私・・・の・・敵。ここに・・・・住みたい」
「そうだよな。ここに住むしか・・・って? え?」
僕の聞き間違い?
今、キーはここに住むって言ったのか?
まさか、そんな・・・
「住む・・・私・・・・ここに」
聞き間違いじゃ無かったー!!
「な、何でだよ。この部屋一人暮らし用だし。それに、お金も」
「稼ぐ・・・だから・・・ここに・・住まわせて」
「うぐっ!?」
何故か、彼女の瞳に強い意志を感じるのだがっ!!
「い、いやいやいやいや!! 女の子と2人で同居とか。ははは、そんなこと出来るか!! 大体、僕どうて・・・じゃなくて、女の子と付き合った事とかないし、ましてや同居とか」
こんな美少女と2人で1日中過ごすとか気持ちに余裕が無くなるわ!!
それに、こんなの親とか先生にバレたら退学だわ!!
「だめ?」
「うっ・・・!!」
確かに、女の子を一人にさせるのは色々と危険だ。
ツチグモは確かに治安は基本的に良いけど、悪いところもあるからなぁ。
特に、僕の住む第1区は学生が1番多く住んでいるところでアンチグループも多い。
やはり、1人にさせるのは危険か。
仕方がない。
「分かった。一緒に暮らそう。だが、条件がある」
「条件?」
「そうだ。条件だ」
僕は右手を机の上に差し出して、人差し指を天に向けて1を表す。
「1つ目。これからは家計が苦しくなるから一緒にバイトをすること」
「うん」
次に中指を立てて、
「あと、家事と料理は日割りで役割分担をする。この2つが出来るのなら、住まわせてやっていい」
「お願い・・・する」
「ん」
即答か。
まぁ、仕方あるまい。
「分かった。その代わり、今の約束は果たしてもらうぞ。僕は学校があるから、お前はバイトを探して来い。良いな」
「うん。分かった」
彼女は強く首を縦に振った。
本当に大丈夫なのかなぁ。
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