復讐の英雄は世界に叛逆す

佐々木悠

第1話

人魔大戦。我ら人間やエルフ、ドワーフなど人類種と魔族との間で争った戦いの事である。

人類種の盟主アザリアーノ王国。

魔族等の盟主ディノグリス帝国。

両軍の衝突する人類側の最前線に位置するのが我が一族の所領であるクロード大公領。

そこが俺の所領だ。大戦で父と兄を数ヶ月の間に相次いで亡くし大公位を継承したのが三日前。何もかもが素人に戦争指導を任せた王室軍事参議院の連中だと確信している。勇者の護衛として魔術の名門の娘である、俺と兄の婚約者を送り出したら勇者と婚約すると発表があったのが1週間前。王国は我々に離反されたいのだろうか?多種多様な人種構成を持つ我が領土は数十万を動員できる人口の多さが自慢である。そんなウチですら現在の残存兵力は3万。対する敵は、20万。どう勝てと。領都の城が包囲されて陥落寸前。最強にて神聖なる勇者様は転身遊ばされ、3ヶ月に渡り、20万の敵から城を守っている。外では一応、英雄扱いらしいが。今は評判より一兵でも増援を願うばかりである。


「第4城壁放棄!第3まで撤退!」


既に十重の城壁は3枚しか残っていない。


「ヴァン様!第3城壁と第2城壁は既に破壊されています。収容できた兵力は2000。」


2000、第1城壁内にいる兵員と合わせれば5000。


「…ロイツ。白旗を上げろ。」


「……承知しました。」


仕方が無い。5000で20万のにどう戦えと言うのだ。


「親衛騎兵隊用意せよ。せめて威風堂々とは出たい。」


白旗が掲げられると攻勢は止まった。既に大公領内に味方の軍勢は居ない。3ヶ月、3ヶ月留めたのだからそろそろ諦めてもいいだろう。


「貴様がここの司令官か!」


第1城壁の門で魔王の紋章付きの馬鎧を付けた騎兵隊に呼びかけられる。


「そうだ。俺がヴァン・ヨハネス・フォン・クロードだ。降伏する。」


「魔王陛下がお会いになる。失礼の無いように致せ。」


俺の得意なのは戦争の指揮では無く、個人戦闘であり、交渉だ。ここなら何とかしてみせる。


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大公領陥落数日前

王国政府は連絡の途絶えて久しいクロード大公領に援軍を派遣する事を決定。将軍にクロード大公の義父に当たる筈だったロイゼン侯爵オットー閣下を補職。オットー閣下は魔王軍の罠に嵌り包囲殲滅されオットー閣下自身も虜囚となる。

そして陥落三日後に勇者ハヤトを大将とする王国軍3万に諸侯軍6万を加えた9万が駆けつけるも陥落している事をしり手前にあるローゼン城塞を拠点に睨み合いの続く膠着状態に陥った。


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「面をあげよ。誰か椅子を渡せ。」


魔王の本陣。その陣幕の中で敗軍の将として面会が行われている。傍に控えている小姓の1人が椅子を俺に渡すと魔王が口を開いた。


「貴様は王国をどう考えている、貴様の婚約者は勇者に寝とられたらしいでは無いか。」


「恨みはありますが、王国の貴族なので。」


取り敢えず、形式的に回答してみる。反応を見てここから修正していかないとならないし。


「我が陣容は強い。なれど頭の使える奴が居ない。そこで王国に、人類に恨みを持っている貴様なら私の覇道に力を貸してくれると思った。我が下で働いては貰えんか?」


嘘だろ?確かに攻め方は単調で稚拙だったが、物量で押し潰されるのは充分な驚異だ。


「敗軍の将故に裏切るやもしれませんが?」


魔王は笑った。


「その反応が物語っておる。貴様に王国に対する忠誠心は有るまい。」


「分かられますか。分かりました。私を陛下の臣として下さい。」


「魔王ローザ・ルクスリアの名においてヴァン・ヨハネス・フォン・クロードをクロード総督に任じ、魔王軍参謀長に任ずる。」


「拝命致します!」


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