第36話 AI(愛)の再会 5/5

ムハイの指導は苛烈を極めた


(死ぬかもしれない)


そう思わせる程だった




その時は一日の修行の最後にやってくる


初日は、魔力と『気』を同時に練り上げ


維持するだけ精いっぱいだった


そして勇気がこれ以上は正常に維持出来ない


そうと思った瞬間


それは起こった


この時には何が起こったのかさえ分からなかったが


身体が吹き飛ばされた


その瞬間


死を覚悟した


そして彼は意識を失った


ムハイは気を失った弟子を屋敷の一室に横たえ


彼の乱れた『気』を整えてながら


(こ奴も逃げ出すかもしれんな)


回想に耽っていた


かつて彼の元には、沢山の武闘家や剣士が師事を求めてやって来た


だがその全てが数日で逃げ出した


連日、死を覚悟させるほどの一撃を受け昏倒される


無理からぬことだとも思う




夜も更けて勇樹は目を覚ました


「ここは何処ですか?」


「ワシの屋敷の一室じゃ」


「今日はここで休め」


そして意を決して彼に問いかける


「明日も修行を続けるか?」


「はい! よろしくお願いします!」


即答だった


しかも満面の笑顔を浮かべていたのだ


かつての弟子たちは顔をしかめ


ようやくその言葉を口にしたと言うのに


(ともすれば こ奴なら・・・) 


「ガハハハッ! ではまた明日な!」


彼は嬉しかった


スキップしそうな足取りで


自室へと戻って行った




それから少しずつ、魔力と『気』を同時に動かせるようになっていく


そしてやはり修行の最後に衝撃を受け気を失う


(死ぬかもしれない)


毎回、そう思わせる一撃を食らう


ムハイは勇気に問いかけた


「お前は死が怖くないのか?」


「それは怖いですよ」


「ではなぜあの一撃に耐えられる?」


「耐えられてないですけど 気を失ってますし」


「でも 師匠の一撃は死ぬ程の思いをしますが」


「絶対に死にませんからね」


(こ奴分かっておったのか!?)


ムハイの放つ一撃は相手を殺す威力はない


魔力と『気』と共に


受けた者が死を覚悟するほどの殺気を込めて放っていたのだ


だが人の精神は身体に影響する


少しでも加減を間違えれば


死の感覚が現実となって、本当に死亡してしまう


ムハイは相手の状態を見極め


絶妙に威力を加減していたのだ


「絶対に死にませんからね」


それは、勇樹がムハイに絶対の信頼を置いているという証だった




死を乗り越えた時、身体はそれに抗うために自身を強くしようととする


トレーニングに『超回復』と呼ばれる現象が起こるのと同じように


それが修行の効率を高めるものだと悟るのに


ムハイは何十年と時間を費やした


それを良かれと思い弟子に施したのだ


体力を消耗し集中力が無くなれば修行の効果が落ちる


そのタイミングを見計らって『死を覚悟させる一撃』を放っていた


だが、今まで連日続く死の恐怖に打ち勝てる者は居なかった


だが勇樹は最後までくじける事はなかった


師の言葉を信じていたからだ


『焦る事は無い』


行く先々で見放され基本の型しか覚えることが出来なかった


そんな自分に初めて言ってくれた


『あきらめない限り絶対に体得できる』


と断言してくれたのだから


そして彼は、師匠の言葉の通りに成し遂げる




月日が経ち


魔力と『気』の循環も乱れることが無くなってきた頃


「お前の技を見せてくれんか?」


ムハイは勇樹に


自分の技を見せろと言ってきた


「基本の型をなぞっただけですが」


恐縮しながら、勇樹は


自分の今までの修行の成果をムハイに披露した


変幻自在に繰り出される


(よくぞここまで基本の型を昇華させだものだ)


ムハイは勇樹の努力の結晶を目にして感心した


そして思った


(ワシも基本の型からやりなおしてみようかのう)


そうすれば自分もまだまだ強くなれる


彼の技はそう思わせてくれる程の価値があった




「ユウキよ 見事だった!」


「お前の技は、すでに流派を名乗るに値する」


「これからは『無限流』いや『夢幻流』と名乗るがよい」


変幻自在に繰り出される事


夢幻の如し


故に『夢幻流』


「もうお前に教えることは何もない」


「後は、魔力と『気』を呼吸をするが如く」


「自然に循環できるように努めよ」


「そして徐々にその速さを増して行け」


「さすれば、このようになる」




ドンッと大地が震動する


ムハイと初めて会った時に起こった現象だ


あの時はなにが起こったのか全く分からなかった


だが今の勇樹には分かる


「魔力と『気』が融合した!?」


だが、同時に


たどり着くには遠い道のりだという事も分かった


その循環の速度は


とても今の勇樹には不可能な早さだったからだ


「そうじゃ 過程は違えど『魔気合一の法』と『魔気太極循環の法』」


「たどり着く先は同じ」


「魔力と『気』の融合じゃ」


「まぁ、まだまだワシも無駄が多い」


(え! それで?)


「お前と言うライバルも出来た」


「ワシはもっと強くなる!」


「え!? 僕は師匠の弟子ですよ?」


「ワシはお前に『気』の使い方を教えたが流派は違う」


「故に、これからは共に強くなる好敵手という事じゃ!」


「このような血の滾り 何百年ぶりか!?」


「ガハハハッ!」


そして、勇樹はムハイと別れを告げ


帰路についた




「と言う訳なんだよ」


愛とナノに最後の修行について説明する勇樹


「「何それ実話!?」」




にわかに信じがたい内容だが


信じざるを得ない


伝説の魔物『白銀の魔狼』ルナが


勝負にすらならなかった


その強さが


勇樹の話が真実であると証明しているのだから



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