隻腕の無限転生
油絵オヤジ
第1話 青空
ああ、碌でもない人生だったな。
ブラック企業の営業で、終電で帰る毎日を10年。神経が磨り減り切ったところでリストラ、潰しも効かずに手を出したのが特殊詐欺、いわゆるオレオレ詐欺だ。散々苦労したんだ、罪悪感なんかあるわけもなかった。営業時代より、はるかに成績よかったな。10年の営業生活でコミュ症だけは治ったから、組の幹部に取り入って経済ヤクザ。腕っぷしもなにもないのに、ヤクザ気取って喧嘩に巻き込まれて頭を打ってこのざまだ。目の前はもう真っ暗。頭からはドクドク血が流れているんだろう。いや、血じゃないかもしれないな。ほら、そろそろ頭も回らなくなってきた。痛みももうよくわかんねえ。こんな人生なんて
おれは
まだ
目を開いた時、空の青さに思わず目をつぶった。さっきまで薄明るい夜空が、裏通りの暗いコンクリートに切り取られていたのに。
目の前には、360度広がる空と、ところどころに雲。
「綺麗だ、な」
声が聞こえたことに驚き、それが自分の声であることにまた驚いた。
そして、頰を伝わって地面に落ちる涙にも。
嗚咽が、やがて号泣に変わるのを、止められなかった。おれは、子供のように、わんわんと泣いた。
いつまでそうしていただろう。
手を上げた俺は、自分の指に見たことのない指輪があることに気づいた。まるでナットのようなゴツい指輪が、経済ヤクザのそれとは違うゴツい指に嵌っている。腕には何か金属の板が巻かれ、記憶にある白いスーツとはまるで違う。首を起こし、上半身を起こし、立ち上がる。ああ、これは鎧だ。自分の体を見渡してすんなりと理解した。
地面に落としたのだろう、転がっていた剣を持ち上げる。手に馴染む。まるで伴侶のようだ。おれの嫁は、リストラされた時に家を出ていったが。
足元に影が落ちる。おれのものではない。おれの周りをぐるぐると回りながら、急速に大きくなっていく。見上げる。そこには、見たこともない…いや、マンガやゲームの中でよく見知ったシルエットがあった。
ドラゴンだ。
大きく開けた口から、生ゴミのような腐臭が顔に吹きかかり、視界はドラゴンの口でいっぱいになった。
そして、逃げる間も無く食われた。
丸呑みならまだよかった。
まず、脚に巨大な牙が食い込み、ぶちりと音を立てて千切れた。初めて味わう激痛。血がほとばしり出る。猛烈な吐き気。何も考えられない。長い舌が身体を回転させ、押し出し、また牙が左肩を粉砕する。痛い痛い痛い。きっと絶叫しているのだろうが、自分の声が聞こえない。肺が灼けるように熱い。咀嚼するたびに身体が千切れ、押し潰され、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
首が引き千切られ、おれはようやく意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます