灰色の惑星

琴猫

序章

序章 灰色の人類

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 西暦20XX年。

――――やっとこの時が来た。と、星崎優樹は【SIPGM】からの国際郵便を手に興奮を隠しきれなかった。

 これで、孤立し居心地の悪い職場とも、最低最悪な上司とも、クソジジイの下卑た会話からもオサラバだ。対人関係やコミュニケーション能力に障害を持つ、と診断されている優樹にとって、この世界は地獄以外の何物でもなかった。


 誰かと誰かが繋がることが当たり前。そうじゃなければ変な奴として社会から白い目で見られ、片隅に追いやられてしまうような、濃厚な人間関係とコミュニケーションを要求されるこの世界など。


 自分が職場でどんな噂を立てられているか、考えるだけでも苦痛だった。


 だが、それも今日で終わりだ。

 速攻でネットから適当な「退職願」をダウンロードして入力・印刷。白い封筒はコンビニで買う。

 私物は100kgまで、持っていけないものは業者に処分してもらう。必要なのはラノベと漫画と、創作に必要な資料と………

 と、優樹はそこで、まだ【SIPGM】からの国際郵便の中身を開いていないことを思い出した。慎重にハサミで封筒の端を切り、中身を取り出す。

 中は日本語で、【SIPGM―「灰色の人類」の皆様の宇宙移民計画について】と銘打たれていた。




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【日付 Date:20XX / XX / XX】

【住所 Address:―――――】

【電話番号 Telephone number:070-XXXX-XXXX】


【氏名 name:Yuuki Hoshizaki】



【SIPGM―「灰色の人類」の皆様の宇宙移民計画について】

(Space Immigration Project for Gray Man)


 背景、益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

 さて、この度ご応募いただきました【SIPGM―「灰色の人類」の皆様の宇宙探査計画】への参加につきまして、診断書・諸検査・面接等精査しました結果、参加への内定が決定いたしましたのでご連絡させていただきます。


 計画への参加に際しまして、必要書類、旅券等同封いたしましたので、ご確認の上ご用意の程お願いいたします。



【同封書類】

・計画参加についての概説書

・診断書(原本返却)

・手続書類×3枚

・旅券

(スカイ航空ビジネスクラス 12月7日17:54分 日本国際空港発グアム空港行き)

※時間厳守でお願いいたします。



 その他、ご不明点等ございましたら、お気軽にSIPGM日本支部までお問い合わせの程お願い致します。



以上


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 これで……この世界ともオサラバだ。

 きっと、その方がいい。コミュニケーション能力に問題があって、要領も悪い適応障害をこじらせた中途の30代にとって、この世界はあまりにも冷たい。

 きっと、自分がいない方が世の中上手く回るんだろう。遠い星で、同じような境遇の人たちと集まって暮らしていた方が、親にも会社にも迷惑がかからない。テレビやネット、SNSやスーパーメディア類では棄民政策と言われているらしいが、地球でゴミみたいなメンタルで生活を送るぐらいなら……。


 優樹は旅支度を始めた。

 遠い遠い、地球には二度と帰ってこないだろう旅の準備を………






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【SIPGM―「灰色の人類」の皆様の宇宙移民計画の概要】


【目的】

「灰色の人類」と呼ばれる、他人との人間関係、コミュニケーションを極めて苦手とするが宇宙空間に対する高い適性と知能を有する人類を地球から離脱させ、居住可能な別惑星へと移住させる計画。

 地球人類総人口のうち、条件に合致した5.6億人を地球から8741光年離れたS-6654恒星系の第5惑星へと送ります。移民宇宙船は1隻につき150万人を収容可能で、人員・資材移送により延べ1000回に分けての移民を予定しております。


【移送期間】

超光速航法で片道およそ28日。


【移民後】

SIPGM委員会が生活等を指定・サポートいたします。


【注意点】

地球とは完全に連絡不可能となります。

(移民先の社会秩序維持のため)


移送中に精神特性の変化が見られた場合、医学的処置を施す、もしくは地球へ帰還していただく場合がございます。



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