第46話 ソープランドのニャゴロ―


 最近我輩の縄張りへ糞尿を垂れ流すバカモノが後を絶たない。特に間借りしている三河家の庭は我輩を含めた家族の憩いスペースとなっておるのに香ばしい……もとい、悪臭が鼻を刺激する。


 「ニャゴロ―! あんた庭でウンチしたな!?」


 「フニャァーッ!」


 冤罪を主張する我輩に対し、一切耳を貸そうとしないお手伝いの執拗な折檻を受ける毎日にホトホト嫌気がさす今日この頃。


 「今度やったらお尻の穴をアルゴン溶接してやるから覚悟しな!」


 なに?

 お尻の穴にア……エン……ソ溶液をかけ……るだと?

 まさかとは思うがナトリウム水溶液のことか!?


 なめるなよ人間めがっ!

 同じナトリウムでも貴様には水酸化ナトリウムを浴びせてやる!


 思い立ったら即行動が我輩のモットー。明日やればいいや後でやればいいなどのセリフは仕事ができぬ落ちこぼれの代名詞。確か商店街楽器屋を抜けた裏手に水酸化ナトリウムを使う、所謂があったはずだ。急げっ!



 こうしてニャゴロ―はこの街にある唯一の石鹸工場へ向かった。

 工場に着くや否や、その鋭い嗅覚で水酸化ナトリウムを扱う部署へ潜り込むと、物陰から様子を伺う。


 うーむ、結構な人間が仕事をしているな。

 なかなか難易度の高いミッションだぞこれは。


 ここまで全速力で走ってきた我輩は喉がカラッカラとなっていた。仕事の前に一先ず喉を潤そうと辺りを見回す。すると……


 ”苛性ソーダ”とラベルが貼ってある容器を発見。しかも巨大なタンクから小瓶程の容器に入ったヤツまで大小さまざま。ラベルにはパーセンテージ表記がしてあり、それを見た我輩は一瞬で理解した。


 ソーダと言えば人間どもがあっつい日に飲む炭酸のことではないか!?

 この際飲むだけなどとケチなことは言わずにこの最大パーセンテージである巨大タンクの中へ飛び込み全身で浴びようではないか!


 イィヤッホォォゥッ!

 {パシャッ}



 数日後、工場での設備点検の折、白と黒の毛皮らしき異物がタンク内で浮遊しているのを従業員が発見。しかしブラック企業であるこの石鹸工場は事実を公表せず闇へと葬った。その浮遊物がなんであるかも調べぬままに……。


 ※水酸化ナトリウム=苛性ソーダ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る