第24話 諜報員ニャゴロ―


 ここはどこだ?

 我輩は誰だ?


 何も思い出せない。自身の生まれたアイデンティティーさえも分からない。我輩はいったいどうしてしまったのであろうか?


 行く宛てもないまま、フラフラと公園を彷徨う。自然と我輩の足は食料が大量に捨てられている場所へ。そこには既に数匹の猫がカリカリと音を立てながら食料であるドライフードを口にしていた。


 その時であった!

 一匹の猫がこちらへ目を向けると、まるで敵を目の当たりにしたかのように即攻撃態勢へ!

 それを見た我輩は瞬時に爪を出すと目にも留まらぬ速さで連続ネコパンチ!

 反撃のスキを与えぬままその三毛猫を血祭りに!


 なんなんだ我輩は?

 勝手に体が反応したぞ?

 もしかして暗殺者なのか?


 自分の両前足を見つめて耽っている最中、今度はその隣で争うようにカリカリフードを取り合っていた二匹が足を止めて我輩を睨みつけた!


 ドラ猫はこちらへと全力疾走!

 完全に殺りに来ている!

 我輩は無意識のうちにサイドステップ、ひらりとヤツをかわす!

 ドラ猫が横を過ぎる瞬間、回し蹴りの如くその小汚い虎模様の後ろ足を払った!


 この体のキレはなんだ?

 我輩まるで修練されたアサシンではないか!?

 

 因みに足を引っかけられたドラ猫は前のめりで転がり、そのままボールのように刈られたばかりの笹畑へ。切断面が鋭利で細い竹槍と化した笹は容赦なくヤツの体をぶっ刺していく。先程の三毛猫と同じく血だるまとなってしまった。


 だがまだ終わった訳ではない!

 ドラ猫とカリカリを奪い合っていたシャムネコモドキの薄汚い猫がまだ残っている!

 腰をかがめたと思った次の瞬間!

 体半捻りで前足を大きく振り上げた!


 このままでは殺られる!

 我輩のニュータイプ能力がひと足先の未来を予測!


 ヤツが攻撃態勢へと移るコンマ何秒のモーション中、加速装置(後ろ足)をばねのように絞って即開放すると瞬く間にシャムネコモドキとの間合いを詰める!

 この時我輩も動作をミスりそのまま頭突き突撃!

 脳天へ走る激しい電流!

 ニギャアァァァァァァッ!

 

 ……そこで記憶は途絶えた。



 ――― 答え ―――


 美也に追いかけられ、息も絶え絶え公園に逃げ込もうとしたニャゴロー。

 たまたま公園近くを徘徊していたゴールデンレトリバーのゴン太君にぶつかり脳震盪を起す。

 てっきり遊んでほしいと勘違いした彼は、その巨体で覆いかぶさるようニャゴロ―の上へ。

 窒息死寸前のニャゴロ―だったが、偶然現れた餌マキババァによってゴン太君の意識はそちらへ。

 命こそ助かったものの、酸素不足によりニャゴロ―は脳細胞の70%を破壊され記憶喪失へ。

 

 意識が戻った後、普段からの習慣で公園の食堂(禁止されているにもかかわらず、どこぞのババァが勝手に餌をまく場所)へ向かうとそこにはいつもの三バカが。

 そして彼等は普通にニャゴロ―へ挨拶しようとしただけ。

 ニャゴロ―が勝手に攻撃されると勘違いしてこの有様。


 ――― ご愁傷様 ―――

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