サッカー女子は異世界でもトレーニングを続けたい ~試合があるので帰らせていただきます~
こみや みこ
第1章 王太子殿下との婚約
第1話 いつの間にか、囲まれています。
「…いっ、痛ぁぁぁ……」
身構えていなかった痛さに、常に“転び慣れている”私でも刹那、呼吸を忘れたくらい。
なんで転び慣れてるかって?
それは私が小学校からずっと続けているスポーツのせいだ。走って飛んで、ボールを蹴って、激しくぶつかる事も転ぶ事も日常茶飯事だから。
ずっと続けている大好きなサッカー。
一つのボールを追いかける。それだけのことなのに、ドキドキワクワク胸が高鳴る。私を捉えて離さない憎いヤツ。
「これって恋?」
とか言って、友達に笑われたのはずいぶん前のこと。頭の中はサッカーのことでいっぱい。だって大好きなんだもの!
だから高校生になった今でも、ちゃんと現役女子サッカー選手だ。
そんな私だけど…。
―――痛い、痛いよ。
―――折れてないよね?
突然尻餅をついた、いや、落ちた…。そんな感覚だった。
落ち方が悪かったのか?いや、そもそも尻餅なんて久しぶりじゃないの。
衝撃をモロに受けたけど、下が芝生で良かった。
「………?」
いや…待て。
…なんで尻餅?
あれ?
なんで芝生?
ん?
私、ピッチに立ってた?
試合中だっけ?
いやいやいやいや。ないないない。制服着てるし。
そもそも私は何してたっけ?
足元の芝生に目を落としたまま考えを巡らせる。頭の中も、視界に入る情報も、上手く整理できない。
頭の中が真っ白。
私は奥歯を噛み締め、痛みをこらえながら、混沌の淵に沈みそうになる意識を必死で引き上げようとしていた。
薄ぼんやりとした視界の先に、影が写る。
「?」
ふと顔を上げると、目の前に銀色に輝く尖頭があった。
じわりと焦点が定まってくる。
その
―――はい?
あの時のキラキラした瞬間を今でも覚えている。
秋晴れの、頬を掠める風が少しだけ涼しくなってきた日曜日の朝、ピッカピカの小学校一年生の私は、希望に瞳を輝かせて地元の少年サッカーチームに所属した。
先に始めていた兄の影響があったのはもちろん。―――プラス、私にサッカーをさせたい母親の策略にまんまと嵌った結果だった。これは後から知った事だったけど。
大好きなお兄ちゃんの練習につき合ってボールを蹴っていた私は、ドリブルやパスという“技”に、ちょっとだけ、いや、結構…、いやいや、うん、かなり自信があった。
はっきり言うと、調子に乗っていたんだと思う。
二つ上の兄より上手だと思っていたし、何より、私の蹴ったボールは真っ直ぐ相手の足元に収まったから。
やるからには日本代表になるんだって意気揚々と練習に出かけたなあ。
まあ、それだけじゃあダメだって、少年サッカーチームに入ってすぐに分かったけどね。
それでも、低学年のうちは楽しんで体を動かすことがメイン。
腰にビブスを挟んで鬼ごっこのように奪い合う「アップ」ならぬ「しっぽ鬼」、それからサッカーテニスも楽しかった。
でもでもでもっ!
それより何より、コーチの緩急つけた
これが、私、―――根元美月のサッカー人生の幕開け。
サッカーが楽しくて、毎日が輝いていた。
男の子に交じってボールを追いかけ、走り回った。男の子に当たり負けしないようご飯もたくさん食べた。
奪われたら奪い返す、倒されたら…、大きな声では言えないが、ファウルにならないようやり返す。
あー、いやいや、もちろんフェアプレイ精神に則ってますって。
基本的にはね。
ただ、女子相手だからと小馬鹿にされたり、手を抜かれるのが大嫌いだっただけ。
それこそ男子からボールを奪うべく、粘り強く、時に執拗に絡んでいった。
あんまりムキになるから、チームメイトの男の子に「しつこい」って何時も言われたなぁ。
喧嘩もしたけど、切磋琢磨しながら、小・中学校と男の子メインのチームでプレイした。大変だったけれど、鍛えられたと思う。
男の子に交じってするサッカーも楽しかったけど、高校からは女子と男子はカテゴリーが分かれる。私は大好きなサッカーを続けるために、女子サッカーチームのある高校に進学した。スポーツ推薦とかいうのももらったし。
まあ、―――悔しいけれど、男子とは体格も体力も随分差が付いちゃったしね。
既に、楽しいだけのサッカーでは無くなっていたけど、やめようとは思わなかった。
…と、しておこう。
そりゃぁ、いろいろあるわよ。
そうして、高校二年となる現在まで、「泥と砂にまみれたサッカー漬け」の毎日を送ってきた。
てか、この状況で、なんで呑気に思い出に耽ってるのよ。
大丈夫か?私!
いや、だけど、現実逃避したい!
転び慣れていても痛い!
いや、そうじゃなくてっ!
人に刃物を向けられることになんか慣れてない!
そんな経験ないからっ!
あっ、もしかしてこれって“走馬灯のように”てやつ?
えっ、―――じゃあ私死ぬの?
思わず息を飲む。
目の前の鋒から目が離せない。正面を見据えたまま固まった。
ああ、サッカーで鍛えた感覚を研ぎ澄ませなくても、
囲まれている。
殺気も感じる。
ナニコレ?
考えたくないけど槍だよね?
生で見たことないけど。
いや―――。
ナニ、コレ!
何これぇぇ――――っ!
どうしよう。
どうしたらいい?
ちょっとこれ、ヤバイやつかも――。
赤い上衣に黒のトラウザースを履いた衛兵が、美月の周りをぐるりと囲んでいる。
美月の背中に、冷やりと冷たいものが流れた。
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