いたずら心が顔をだす

糸花てと

1. 夢心地

 予算はギリギリだった。それでも一緒に暮らせるのが、何より嬉しくて、どんな事も平気に感じた。


“家族が増えたら、狭いよな”


 目についた時だけ、その瞬間だけ仕事情報の雑誌やネットのページを開いた。


“にぎやかでいいやん。うちも探すし、二人でやっていくから、夫婦なんやで”


 いつでも笑って、励ましの言葉をくれた。


“こっちがかなめで、こっちがうちや。色違いの食器”


 近場にあった百均。そこでの買い物が、すごく楽しい。色違いを好むって、女子の間だけだと冷めて見てたのに、この人だと誓った相手から受け取ったものは全て嬉しかった。

 もっと格好よく言いたいのに、小学生みたいな簡単なことしか出てこない。


“要の好きなオムライス。やけどな…たまごの加減難しいわ。ちょっと失敗”


 俺が好きだからって、作ってくれた料理。それだけで充分すぎる。


“シャツから香水のにおいがしたんやけど、誰かと会ってる?”


 覚えはあるけど知らない振り。嫉妬が嬉しいって、最低な考えかもなー。


 まっすぐに俺をみては、時々いじけた表情がたまらなく愛しい。


「要──…かなめ!」


「うわっ、なに!?」


「さっきから呼んでんのに、無視するとは、ようやるわ。っていうか、またエロゲーやっるん? 飽きへんもんやねー。設定されてる嫁のどこがえぇねん、はよ片付けなよ」


 座ってコントローラーを触っているから、必然的に嫁から見下ろされる状態に。飽きるわけないだろ、どこが良いかって? そりゃ、無条件でホメてくれるからさっ!


「今夜も…」これだけですか? というのは呑み込むべし! そういうのをテレビで見た。


「なんか言うた?」


 目だけがこちらを伺う。ほらなっ! めっちゃ怖い!


「いや、何でもない。そ、そうだ! 明日出掛けるか。紗江さえも休みだろ?」


 箸を置く。ふぅー…っと、深く重めの息。なんだよ、コレ……とうとうヤバい?


「病院、一緒に来てくれへん?」


「へ? どっか悪いの!?」


 紗江は顔を赤らめ、「そうやない。産婦人科よ。家で簡単に分かるやつで、出たんよ。詳しく知っとかなあかんやろ? ついて来てや」


 小学生みたいな簡単なことしか出てこない。


「やっべ。マジで!? これからは俺が家のことやるから」


「あほ。早いわ。しばらくは大丈夫や。まぁ、あんたからの提案は嬉しい。ありがと」


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