第37話 プレジョン・スナイパー
「お前、『ガトー』とか言ったな?」
リーパーはさっきリーパーに脅されていた彼女を守った男を指さす。
「あぁ、そうですよ。」
彼はふてくされた様な声でリーパーに返事をした。
「俺が一応隊長だ。自己紹介しろ。」
「ドゥー・ガトー少尉、15歳であります。」
ガトー少尉はリーパーに一応敬礼をした。
彼は赤髪で、やや不幸顔だが身長はリーパーより1cm小さい位だ。
「次。おい、そこのお前だ。自己紹介をしろ。」
「は、はいっ!」
リーパーはさっき脅した彼女を睨む。すると、彼女は飛び上がって敬礼をする。
「で、デイリッシュ・マカロン少尉です!15歳です!よ、よろしくお願いいたしますっ!隊長!」
「そうか。分かった。」
リーパーは何もしなかった。それを見たデイリッシュ少尉は安心し、無い胸をなでおろす。
「お前達、実戦経験は?」
リーパーは部隊の3人に聞く。
「ハッ!我々はアフリカ統一戦争に参加しました。」
ロメオ中尉はリーパーにアフリカでの実戦経験があると語った。
「カイロはどうだった?」
「地獄の様な景色が広がっており、銃声と砲撃の音が止む事はありませんでした。」
「そうか。」
「そういえば隊長殿は、アフリカ統一戦争の頃はどこに配属されていたのですか?」
ロメオ中尉がリーパーに尋ねた。
「イギリスだ。イギリスでSIS―――、まぁ、スパイと戦ってた。」
「―――その時に俺はコイツと戦ったんだよ。」
部屋の隅で倒れていたプライスが、痛そうに脇腹を抱えて起き上がり、近づいてきた。
「おぉ、まだ生きてたか。」
「おかげさんでな。」
プライスはリーパーに手を振った。
「ってな事で、この部隊の隊長はお前だからよろしく~。」
「ふざけるのもいい加減にしろ。俺は拒否する。」
「おい、これは1番上のボスからの命令だ。従わなかった場合、お前はもうこの組織には居れなくなるだろうな、、、。」
プライスはそう言って脅した。
「分かった。承諾しよう。」
「良いぞ。」
仕方が無く、リーパーは部隊を承諾した。プライスはリーパーの肩を叩く。
「それじゃ、明日から訓練だ。訓練プラットフォームに11時に集合だ。」
「おい、そんな遅い時間で良いのかよ!?」
プライスは驚いた様子でリーパーを見る。
「俺は朝には弱いんだよ。ゆっくり寝かせろ。これは隊長命令だ。分かったな?」
『了解!』
部隊の全員が大きな声で返事をし、敬礼をした。
そう言ってリーパーは退室した。彼らはリーパーという人間が分からなかった。
翌日。リーパーの部隊は訓練プラットフォームに来ていた。先ずは、簡単な射撃練習からだ。
「良いか?先ずはAK-47をあの的にフルオートで撃ってみろ。最初はデイリッシュ少尉。お前からだ。」
「は、はいっ!」
リーパーは30m先にある金属の的を指さし、デイリッシュ少尉にズシリと重いAK-47を渡した。
「ハウッ!お、重いっ――!」
デイリッシュ少尉はAKの重みに負けて体が持っていかれそうになるが、なんとかこらえる。
「そ、それじゃあ撃ちます!」
そう言ってデイリッシュ少尉はトリガーに指を掛けて、トリガーを引く。
しかし、弾は出ない。
「あれぇ、、、おかしいなぁ、、?」
「少尉、、、。セーフティーが掛かったままカラシニコフを撃とうとしたのか?」
デイリッシュ少尉が持っていたAKにはセーフティーが掛かったままだった。
それでは銃弾は撃てない。
「す、すいません!隊長殿っ!」
「はぁ、、、。論外だ。」
リーパーは頭を抱えた。
「それじゃあ、今度こそ!えぇいっ!!」
少尉はセーフティーを解除してAKをフルオートにし、AKを撃つ。
「あわわわっ!!だ、誰か!止めてくださーーーーいっ!!」
少尉はフルオートに耐えられず、後ろに転んでしまった。しかし、トリガーを引きっぱなしだったので、トリガーハッピー―――乱射状態だ。
「落ち着け!トリガーを引くのを止めろ!!」
プライスが少尉にそう怒鳴った。そして、彼女はトリガーを引くのを止めた。
「よくそれで今まで生き残ってきたな、、、。」
リーパーはパチパチと小さく拍手をした。
「す、すいません、、、。隊長、、、。」
「あぁ、、、。お前は前線向きじゃないな。二度とフルオートの武器を触るな。」
「はい、、、。」
少尉は落ち込んでしまった。
「あぁ、、、また面倒が、、、。まぁ、狙撃でもしててくれ。ボルトアクション式スナイパーライフルなら使えるだろ。」
そう言ってガンスミスに置いてあったボルトアクション式スナイパーライフルのDSR-1を指さした。DSR-1とは、ドイツのAMPテクニカルサービス社が開発したブルパップボルトアクション式スナイパーライフルである。3.38ラプアマグナム弾などを使用する。
少尉はそれをせっせと持ってきて、リーパーの元に帰ってきた。
「これですか?って、さっきのより重い、、、。」
「それで狙撃の練習をしててくれ。使い方は分かるな。」
「まぁ、PMC時代に基礎訓練としてボルトアクションの練習はさせられてましたけど、、、。」
「じゃあ良い。あそこの100mの目標を撃って練習していろ。」
「りょ、了解です!隊長殿!」
そう言ってDSRをせっせと運んでいった。
「ボルトアクションって、コッキングが固くてあんまり好きじゃないけど、、、よろしくね。」
少尉は両手に抱えたDSRにはにかんだ。
「発砲開始!」
リーパーの合図でロメオ中尉とガトー少尉はAKをフルオートで発砲する。
そして、2人がほぼ同時に全弾撃ち切った。
しかし、的には弾が数発しか当たっていなかった。
「まだまだだな、、、銃のリコイルは体で覚えろ。良いな?」
『了解!』
2人はリーパーに返事を返した。
「じゃあ、隊長殿に手本を見せてもらいましょう。」
「あ?」
すると、プライスがドラムマガジンを装備したAK-47を笑顔でリーパーに渡した。
「ほら、手本を見せてやれよ。」
「面倒だ。」
「まぁまぁ、そう言わず、、、。撃ってみろ。気持ちいぞ。」
「はぁ、、、。」
ため息をして、リーパーはAKの銃口を的に向ける。セーフティーを解除して、トリガーを引いた。
7.62mm×39の弾がフルオートで発砲される。その弾の大きなリコイルがリーパーを襲うが、リーパーはリコイルコントロールを難なくこなして的を撃ち続ける。
そして全弾撃ち切った。銃口からは白煙が出ていて、火薬の燃えた臭いが辺りに漂った。
そして、的には無数の弾痕が残っていた。
「まぁ、こんなモンだ。」
リーパーはAKからマガジンを抜くと、プライスに返す。
ロメオ中尉とガトー少尉は茫然と見ていた。
「まぁ、練習あるのみだ。頑張れよ。」
そう言って2人の隊員の肩を叩いた。
そして、放置しておいたデイリッシュ少尉の様子を伺いに行った。
―――あの女の事だから、スナイパーも無理だ。確実にな。
そう思って彼女の狙っていた的をインターフェースで拡大し、リーパーは絶句した。
なんと、的に穴が開くほど当てていたのだ。
「あわわわっ!す、すいません!的に穴を開けてしまいました!!ゴメンなさい!!」
リーパーに気づいた少尉は、一生懸命リーパーに謝った。
「まさか、、、まさかお前の様なヤツが
リーパーは少尉を叱らなかった。むしろ、彼女の才能に息を呑んだ。
少尉には、大いにスナイパーとしての才能があった。
スナイパーはなりたくてなれる職業じゃ無い。生れ持った才能を十分に発揮した物だけがなれるのである。
しかも、スポッター無しで直接的に当てていた。彼女は自分の頭の中だけで銃弾の落下を計算していたのである。
「もう狙撃は良い。後は近距離に責められた時の為にハンドガンを練習しろ。」
「え?お、怒らないんですか、、、?」
「何故だ。」
「え、、、あぁ、、、はい。了解しました。」
そう言ってリーパーは少尉の前から消えた。
最初会った時にあれだけ脅しておきながら、彼女の狙撃の腕を認めた、、、。
彼女はますますリーパーの事が分からなくなった。
「よし、ハンドガンも練習だ!」
そう言って彼女はハンドガンを撃ち始めたのだった。
ハンドガンの有効射程距離の2倍の100m先の的に――――。
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