PASYAKARI

エリー.ファー

PASYAKARI

 この写真は世界を買えるだろう。

 世界とありとあらゆるものを買うことができるだろう。そのレベルの写真である。写っているものがなんであるかなど、この際、関係がないのだ。この写真に意味がある。

 この写真の形、この写真が存在する意義、そこに意味がある。

 写真の裏に何か重要な情報が描かれているという事でもない。

 ただただ、この写真が高価であり、価値があるということである。

 私は少なくとも、自分の手元にこれがあることを誇りには思っている。思ってはいるが、決してそれらがしっかりとした利益を生み出してくれるとは全く思っていない。

 少なくとも。

 少なくとも、この時点で、妹は殺され、両親は行方不明、婚約者は家で首を吊っている所を発見した。

 この写真が元凶である。

 この写真を求めている人間たちがいる。

 これをどうにかしなければならないが、無数にいるのである。

 何人も、何十人も、何百人も、何千人もいる。

 増えている、ということではない、このような悲劇が何の意味もなく、ただ続いている。

 私の前の持ち主はこの写真に対する恨み言を呟き、死んでいったそうである。どうして、このような状況に巻き込まれなければいけないのか。自分にこのような使命が与えられてしまったのは、ただの悲劇であると。

 私は。

 私は、まだ。

 その感覚を味わっていない。

 本当だ。 

 不憫である。

 呪いの写真でもなんでもない。

 ただ、ひたすらに高い価値のある写真、ということである。

 人間の人生を越えた価値を持つ、写真ということである。

 どうしようもない。

 写真を燃やそうかと考えたこともある。

 しかし。

 燃やそうと思っても、実行に移せないほどの価値をそこにやはり、感じさせてくるのである。

 私は完全にこの写真に支配されている。

 間違いなく、写真に殺される。

 気が付けば、私は車の中でその写真を内ポケットに入れて、首に包丁を刺し込もうとする瞬間であった。

 写真の価値にどうしても耐えられないのである。

 車の外を見た。

 顔に穴の開いた男たちが取り囲んでいた。

 何度も何度も、車を軽くではあるが叩いてくる。

 音は。

 何億と重なると。

 車の中で反響し、今度は車を揺らし始める。

 決して車がひっくり返るであるとか、そのようなものではなくまるで、波の上にいるかのように車が静かに揺れる。

 揺れて、揺れて揺れて。

 そして。

 最後は。

 助手席に乗られている。

 車の扉が開く音もなく。

 静かに乗り込んでくる。

 写真を覗き込み。

 二時間だったか、三時間だったか。

 気が付くと。

 私は全裸で車の中におり、複製されたその写真の中に埋もれていた。

 男たちはもういない。

 恐怖はなかったが、不思議な感覚はあり、夢ではなかったのか、と疑わせた。

 今の状況でさえ、夢の中だと思えるのだが。

 残念ながら、これは現実である。

 埋もれた写真の中で動くこともできずに、いると、窓の外で何かが降っているのは見える。

 写真だった。

 私の持っているあの写真が空から降り注いでいるのである。

 最初は理解できなかったが、不思議と涙が零れ落ちてくるのに気が付くと、言葉が漏れる。

「終わった。」

 十二月二十三日から二十四日へ日付が変わる瞬間のことだった。

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