第27話

 微笑む楓を見ていると俺も嬉しくなってくる。

 するとパークの中央で大きな花火が打ち上がった。

 全然気がつかなかったが、もう周りは暗くなり出していた。



「わっ、綺麗ですね……」



 思わず感嘆の声をあげる楓。



「そうだな……」



 楓の後ろに立つと同じように花火を見る。



「また一緒に来られると良いな」

「そうですね……」



 何気なく呟くとそれに相づちを打つように楓が答えてくれる。

 ただ、すぐに顔を赤くしていた。



「べ、別に一緒に来たいから……と言うわけではありませんよ。ただ、また遊びに来たいなと思っただけですから……」



 顔を背けると小さな声で言ってくる。

 それを見て俺は苦笑を浮かべるだけだった。





「花火、終わっちゃいましたね……」

「そうだな。そろそろ帰るか……」



 結構良い時間になっている。

 今から帰るとさすがに夜も遅くなるか。



「帰りはどこかで食っていくか?」

「いえ、大丈夫です。帰ったら作りますよ!」

「いや、でも結構遅い時間だから無理をしなくても……」

「気にしないで下さい。今日は色々お金を使ってもらいましたから、これ以上使ってもらうのは申し訳ありませんので。私が作れば安く出来ますから」



 グッと手を握りしめてくる楓。

 なぜか今日は妙にやる気に満ちているようだった。



「それにここまでしてもらったのですからおいしいご飯でお返しがしたいです……」



 少し恥ずかしそうに告げてくる。

 そこまで言うならお願いしよう。



「わかった……。それじゃあ帰ったら頼んで良いか? 俺が手伝えることは手伝わせてもらうからな」

「それならお皿を並べるのをお願いしますね」



 にっこり微笑みながら言ってくる。

 つまり、料理では手伝えることはない……と言うことだな。

 まぁ楓の料理はうまいから仕方ないか……。



「あぁ、皿出しなら任せろ!」

「ふふっ……、お願いしますね」



 楓が口に手を当てながら微笑んでくる。





 一時間かけて家へと戻ってくると、楓はそのまま俺の部屋に来て料理を作り始めてくれる。

 その後ろ姿を見ながら俺は皿をキッチンに置く。


 体は心地よい疲れが襲ってくる。

 皿を出し終えると俺は腰掛ける。

 そして、ぼんやりと楓の姿を眺めていた。


 よほど機嫌が良いようで鼻歌交じりに料理を作っている。

 そんな姿は今まで一度も見たことがなかった。



「遊園地は楽しかったんだな……」



 ぽつりと呟くが、楓の耳には入らなかったようだ。

 そして、しばらくすると楓は料理を持ってくる。


 出来上がったのはオムライスだった。



「簡単なものですけどね」



 最後に楓がケチャップをかけてくれる。

 そして、先に俺の方に出してくれる。



「美澄の分は……?」

「私のは今から作りますので先に食べておいてください」

「せっかくだし待っておくが?」

「いえ、冷めてしまったらおいしくないので、暖かいうちに食べてください」



 そこまで言うなら先に食べさせてもらおう。



「それじゃあ、いただきます」



 手を合わせた後、スプーンでオムライスを口へと運ぶ。

 半熟の卵の中から見えるトマトライス。


 これだけでも十分うまそうだ。


 それをゆっくり口へ運ぶ。

 その様子を楓は心配そうに眺めていた。



「……うん、うまい」



 その言葉を聞いて楓はホッとしていた。

 そして、安心して自分のオムライスを作りに行った。





「おいしかったですね……」



 オムライスを食べ終えると楓はホッと人心地ついたようだ。

 そして、立ち上がろうとするのでそれを止める。



「後片付けは俺がしておくから少し休んだらどうだ?」

「いえ、それも私が――」

「明日からまた学校だろう? 無理するとまた体を壊すぞ?」

「うっ……、わ、わかりました。ではお言葉に甘えさせていただきますね……」



 二人分の皿を抱えてキッチンで洗う。

 それが終わり、部屋に戻ってくると楓はテーブルに頬杖をつきながら眠っていた。


 やっぱりあれだけはしゃいだ訳だし疲れたんだろうな。


 俺は苦笑を浮かべながら依然使ったタオルケットを掛けようとする。

 ただ、そこで少しだけ考え直す。


 さすがにこの体勢だとあまり疲れが取れないよな?

 やっぱりベッドで寝てもらわないとな。


 ここで以前までの俺だと触ることすら恐れていたのだ。

 ただ、今は楓のことを考えるとその方が良いだろうとゆっくり体を持ち上げる。



「んんっ……」



 一瞬声を漏らしてくるのでドキッとしてしまう。

 でも、すぐに寝息を漏らし始めた。



「結構軽いんだな……」



 そのまま楓をベッドへと連れて行く。

 そして、布団を掛ける。


 さて、俺は床ででも寝るかな……。


 他に寝る場所もないので俺は持ってきたタオルケットを体に掛けて、電気を消す。



「おやすみ……、美澄……」



 よほど疲れていたようで俺もすぐに目が重たくなってくる。




 翌日、目が覚めてくるとおいしそうな匂いが鼻をくすぐってきた。


 キッチンからは楽しそうな鼻歌が聞こえてくる。

 もう楓は起きているみたいだ。


 それなら俺もそろそろ起きないと駄目だな。

 そう思い目を開けようとしたタイミングで楓が俺の体を揺らしながら声を掛けてくる。



「岸野さん、起きてください。朝ご飯が出来ましたよ……」



 なんだかこういうのもいいな……。

 俺は口元がニヤけながら目を開けて大きく伸びをする。

 すると楓が笑顔で言ってくる。



「おはようございます、岸野さん。朝ご飯が出来てますけど、まずは顔を洗ってきてくださいね」

「あぁ、おはよう」



 なんだろう……。この新婚みたいなやりとりは……。


 むずがゆく思いながらも嫌な気持ちにはならなかった。


 こういうのも悪くないな……。

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