第18話
ど、どうしよう……。か、風邪のときと言えばおかゆだよな?
どうやって作れるんだ?
もしかしたら楓が作り置きとしておいていないか確認するために俺は冷蔵庫を開ける。
ただ、普通の料理があるだけで、おかゆの作り置きはさすがになかった。
何もなしに薬を飲ませる……訳には行かないな。
仕方ない、ここは作り方を調べて――。
ネットでおかゆの作り方を調べる。
これでなんとか作れるだろうか?
不安に思いながらネットを検索していくとコンビニでもおかゆを売っていることが書かれていた。
俺自身が作るより買ってくる方が失敗なくうまいおかゆを楓に食べさせることが出来るか……。
「よし、行くか!」
俺は部屋を出ると急いで近くのコンビニへと足を運んだ。
どんな味が良いのかわからないので適当に複数の種類を手に取るとあとは頭を冷やす冷却パットや水分補給のためのスポーツドリンクなどを買い、そのまま楓の部屋に戻っていく。
◇
「待たせたな、美澄!」
「はぁ……はぁ……。お帰りなさい……」
楓が起き上がろうとするので、俺は慌ててその動きを止める。
「寝てろ! 今準備してやるから」
「で、でも、岸野さん、料理は……」
「大丈夫だ。そのためのレトルトだ!」
楓に見せつけるように俺はレトルトがゆの袋を見せる。
まぁ頼りない姿に見えるだろうが、これが一番確実だった。
「どの味を食ってみる?」
「どれでも大丈夫です……」
どこか楓は安心していた。
流石に俺が作るといったら心配していたんだろうな。
どれでも良いと言うなら一番シンプルな奴をしておくべきか。
楓の分のおかゆと同じように俺の分もレンジで温める。
これなら簡単にできるな。
出来上がったおかゆを皿に移すと楓の元へと持っていく。
すると楓はゆっくり起き上がる。
「食べられるか?」
「…………大丈夫です」
その言葉を信じてスプーンを楓に渡すの震える手つきでそれを手に取る。
しかし、すぐにそれを落としてしまう。
そして、苦悶の表情を浮かべていた。
まだ手に取るのも辛いんだろうな。
俺は苦笑を浮かべ、落ちたスプーンを拾い、別のものへと変える。
ただ、俺自身がそのスプーンを持ったままおかゆをすくう。
「…………?」
「ほらっ、食べさせてやるよ」
「いえ、そんなことは……」
「いいから遠慮するな」
「で、でも……」
少し嫌がる様子を見せる楓。
ただ、目の前までおかゆを持っていくと大人しく食べてくれる。
「はむっ……」
ゆっくり口を動かして味を噛み締めていた。
「どうだ?」
「……うん、美味しいです」
「ならよかった……」
再びおかゆをすくい、楓の前に持っていく。
すると今度は素直に食べてくれる。
それを数回繰り返していく。ただ、まだ半分くらい残っているのだが、楓は首を横に振ってくる。
「もうお腹いっぱいです……」
「そうか……、それなら薬と水を持ってくるから一応飲んでおくと良い。あとは冷却のパットを買ってきた。これも一応額に貼っておくと良い」
俺はキッチンに行くと水をコップの中に入れる。
そして、薬と一緒に楓へ持っていく。
「一応市販の薬だが、明日には医者に行くからな? 俺も付き添ってやるから」
「……すみません。ご迷惑をおかけして……」
「気にするな。いつも助けてもらってる礼だからな」
楓に薬を飲ませて、額に冷却のパットを貼ると彼女は気持ちよさそうにそのままベッドへと戻っていった。
「それじゃあ俺はここで……」
「……よかったらもう少しここで……いえ、何でもありません」
起き上がろうとした俺を楓は一瞬止めようとする。
ただ、思い直して、布団で顔を隠しながら言ってくる。
こんな時くらい素直になってくれても良いんだけどな……。
俺は苦笑しながらもう一度その場に腰掛ける。
「……良いのですか?」
「あぁ、美澄が寝るまではここにいてやるよ」
「……ありがとう……ございます」
消えそうなほど小さい声で答えてくる。
そして、余程しんどかったのだろう。楓はすぐに寝息を立てて眠りについていた。
さて、それじゃあ俺は部屋に戻るか……。
楓がしっかり眠りについたのを確認したあと、俺は再び立ち上がろうとする。
しかし、楓がなぜか俺の服を掴んでいて、下手に動くと彼女を起こしてしまいそうだった。
「岸野さん……」
寝言で俺の名前を言う楓。
どんな夢を見てるんだろうな……。
俺は苦笑しながらそのうち手を離してくれるだろうともう一度その場に座る。
◇
(楓)
「……んんっ」
岸野さんに甘えてすっかり寝てしまったようです。
そのおかげで体もだいぶ軽くなりました。
お医者さんに行ってあと一日も寝ていたら治りそう。
ゆっくり体を起こすと私のすぐそばに岸野さんの姿があった。
ベッドにもたれかかるようにして眠っているようだった。
もしかして、一日中私のことを?
ここまでしてくれる人はいなかったので少しだけ嬉しく思う。
でも、岸野さんにその気はないわけだし、迷惑をかけないようにしないと……。
何とかいつもの対応ができるように意識を変える。
するとそこでようやく私が岸野さんの服を掴んでいたことに気づいた。
岸野さん、私を起こさないように……。
その心遣いが嬉しくて、私は小さく「ありがとうございます」とつぶやいていた。
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