困ってるお隣さんを助けたらご飯を作りに来てくれることになった
空野進
プロローグ
「ここで何をしてるんだ?」
俺が
仕事帰りの深夜、アパートの部屋の前に座っている楓を見かけて思わず声をかけてしまっただけだった。
特にやましい気持ちがあったわけでもなく、何かを期待して声をかけたわけでもなかった。
「……あなたには関係ありません」
きっぱりと言い切る楓。
薄いベージュ色の長髪はとても艶やかで、顔立ちもすごく整っている。
誰が見ても美少女というだろう。
一度挨拶に来てたので隣に住んでる女子高生と言うことは知っているが、それ以上のことは全く知らない。
もちろん今まで接するようなことがなかったし、これからもそんなことが起こるなんて思ってなかった。
「関係はないが、流石にこんなところに座られると声をかけざるを得ないだろう?」
もうすぐ深夜になる時間に薄暗いアパート前で一人。
流石に女子高生が一人でいるには危ない時間だ。
一度見てしまったら声をかけないという選択肢は取れなかった。
もちろん俺自身が不審者と思われる恐れもあるだろうが、一応一度顔を合わせてる以上、声をかけるくらいなら大丈夫だろう。
すると楓は顔を伏せながら答えてくる。
「……鍵、無くしました」
「それなら家族の誰かに入れてもらえばいいんじゃないか?」
「……私は一人暮らしをしてますから」
高校になるのを皮切りに一人暮らしを始める人はいるがどうやら楓もそのタイプらしい。
まぁ、このワンルームしかないボロボロのアパートだと基本的に一人暮らしだな。
六畳一間、バストイレキッチンは一応ついてるが、どれも年代を感じさせるようなものだ。
俺の部屋のキッチンはほとんど使うことがないので、今も綺麗なままだったが……。
流石にこの間取りだと複数人で過ごすのは無理があるか……。
でも、独りで住んでるとなると鍵を開けてくれる人はいないわけだな。
「大家……はこの時間だともう連絡はつかないか」
「……はい、思いつくことは全て試したのですが、ダメでした。だから朝になるまでここで待ちます」
ここの大家は老夫婦で朝は早い時間から起きているのだが、その分夜は二十時くらいまでしか連絡がつかない。
深夜近い今だとまず連絡を取ることができないだろう。
諦めにも似た表情を浮かべる楓。
「落としそうな場所は探したのか?」
「思いつくところは全て……。でももう足元も見えないですから」
一応街灯はあるものの薄暗く探し物をするのはほぼ不可能だろう。
それにこんな暗闇で一人探し回るのも危険すぎる。
あと思いつく範囲で打てそうな手は……。
「あとはどこかのホテルに泊まるか、警察に行くか、友達に一晩泊めてもらえるかを聞くくらいだな」
「そうなのですけど、ホテルに泊まれるほどのお金はないですし、警察はその……、あまり厄介になりたくありません」
まぁ、警察に行けば間違いなく学校に連絡があって、そこから一気に校内に広がるだろうからな。
それを避けたいという気持ちはよくわかる。
ホテルの方もその代金くらい貸すのは優にできる。
ただ、一人でホテルまで行かせるわけにはいかないし、そこまで一緒について行くのも色々と問題がある。
女子高生と二人でホテル。
そんな状況を誰かに見られてごまかす自信なんてないぞ。
それなら最後の案だ。
「それなら友達の家だな。誰かいないのか?」
「……はい。流石にいきなりはちょっと難しそうです。連絡を取ろうにもスマホは部屋の中で……」
「電話があれば連絡が取れるのか?」
「いえ、電話番号までは覚えていませんので……」
まぁ、俺も知り合いの番号を知ってるかと言われたら知らないからな。
それだと完全に詰んでしまってるな。
でも、このまま置いていくわけにはいかないもんな。
「はぁ……。わかった、それじゃあ俺が探してくるからとりあえず部屋の中に入ってろ。流石にここだと危なすぎる」
苦笑を浮かべながら一階の一番端『101号室』の鍵を開ける。
そして、靴箱に閉まっていた非常用の懐中電灯を取り出す。
「いえ、大丈夫です。私のことは気にしなくていいですから」
いきなり隣の男が部屋に招き入れたら警戒するか……。
ったく、こんなことをしたら、俺のほうも世間からどんな風に思われるかわからないのに……。
無理やり女子高生を部屋に連れ込んだ社会人。
即警察のお世話になっても仕方ない。
なんでこんな危険を冒してるんだ?
思わず俺はため息が出る。
こうなったら早く鍵を見つけて、出ていってもらうか。
「いいから入ってろ。流石にこのまま置いておくわけにはいかないからな。その間に俺は鍵を探してくるよ」
俺が引き下がらないと見ると、ようやく楓は頷いてくれる。
「……わかりました。よろしくお願いします」
俺たちは部屋へと入って行く。
部屋は散らかっているがそれは我慢してもらおう。
「すごい部屋……ですね」
楓が思わず口を尖らせる。
「男の一人暮らしなんて、こんなものだろう?」
「少しものを動かしてもいいですか?」
「勝手にするといい」
楓が部屋の片付けを始める。
それを見たあと俺は暗い闇夜の中、鍵を探して這いずり回った。
◇
どこを探していいかわからないので、とりあえず闇雲に探して行く。
しばらく探し続け、ようやく鍵が見つかったのだが、時間はすでに朝となっていた。
始発から仕事に出かける人たちならそろそろ起きているだろう。
鍵はアパートの近所の溝に落ちていた。
道路とかに落ちていないかは楓も調べていただろうが、溝の中までは見ていなかったわけだ。
光を当てた時にたまたま光って見えたから良かったものの、確かに普通に探していては見つからなかっただろう。
それを持って部屋へと戻る。
ただ、部屋の中にいるのが楓ということを考えるといきなり扉を開けるわけにもいかず、軽くノックをしてみる。
「……どちら様ですか?」
「俺だ、俺」
「……どこの詐欺ですか?」
口ではそういいながらも扉をあけてくれる。
ただ、この時間に起きているということは一睡もしていないのかもしれない。
流石に知らない男の部屋では寝られないか。
「……部屋、勝手に片付けさせてもらいました。流石に座るところもありませんでしたから」
「あぁ、それは構わないが……」
足の踏み場すらほとんどなかった部屋が床には何も転がってなく、ゴミは袋にまとめられていた。
「流石に簡単な片付けしかできませんでした」
「いや、助かるよ。ありがとう」
楓に礼を言うと彼女は少し心配そうに聞いてくる。
「……それで鍵、どうでしたか?」
「あぁ、見つけてきたぞ。これだろ?」
可愛いウサギのキーホルダーがついた鍵。
それを見せると楓は一瞬笑顔を綻ばせた。
それを受け取ると今度はしっかり握りしめていた。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「気にするな、気まぐれでしたことだ。これで部屋に戻れるな……」
「はい、本当にありがとうございます」
再度頭を下げてくる楓。
そして、部屋を出て行こうとする。
ただ、扉に手をかけた瞬間に俺の方に振り返ってくる。
「このお礼はいずれ必ずさせてもらいます」
「あぁ、期待せずにまってるよ」
楓を見送ると俺はベッドに倒れこむ。
家を出るまであと二時間か……。流石に仮眠だけして行くか……。
いつもより多めにアラームをセットすると俺は眠りについていた。
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