異世界に誇る日本の企業戦士

ちびまるフォイ

異世界は海外出張に入りますか?

「戦士ください」


「ファミチキみたいに頼まないでくださいよ。

 うちはコンビニではなくてギルドなんですから」


「戦士ください」

「話聞けよ」


「ビキニアーマーの美人な戦士ください」

「そういう人は紹介できません」


ギルドカウンターでぶうと勇者は頬を膨らませた。


「もういい。このクソギルドを★1レビューしまくってやる」


「戦士いますよ!!」


奥から出てきたのは七三分けでビジネスバッグを持ったスーツの男だった。

すばやく腰を45度に曲げると手裏剣のように鋭い名刺を差し出した。


「私は企業戦士です。これからお供させていただきます」


「……大丈夫なの?」

「もちろんです」


名刺を出すまでの瞬発性を勝った勇者は企業戦士を仲間に入れて冒険へと旅立った。

最初こそ半信半疑だったが企業戦士の戦闘能力は戦闘民族をも逃げ帰らせるほどの力だった。


「必殺! プリントアウトラッシュ!!」


「ハンコストンピング!!」


「ナガイ・プレゼン・スリープッ!!」


「す、すごい……! 戦士なのに魔法も使えるのか……!」


「このご時世、剣と魔法だけでは勝てません。営業力こそがこの時代の――あ、危ない!」


「ガオオオオッ!!」


企業戦士の猛攻をかわした魔物の一匹が勇者のもとへ特攻をしかけた。

企業戦士はメガネを光らせタイムカードを切る。


「ドロー!! ザンギョウシバリ!!!」


魔物の足元からはザンギョウと呼ばれるどうあがいても逃れることのできない

見えないツタが絡みついて動けなくしてしまった。

やがて徐々に衰弱した魔物は過労死して死んだ。


「ありがとう企業戦士。お前は見た目以上に頼りになるんだな」


「私はただの戦士ではありませんからね」


企業戦士の加入によりますます勢いを増した一行は、

仲間からの「もうアイツだけでいいんじゃないかな」の視線を気にすることなく

諸悪の根源であるラストダンジョンへと踏み入れた。


「今まで何度も挑戦したが一度も倒せなかった相手だが……

 今回は企業戦士、お前がいるから勝てるはずだ」


「全力迅速に遂行します」


やがて待ち構えていた最大の敵が現れた。


「フハハハ。また懲りずに来たようだな、勇者よ」


「今回は今までとはちがう。強い味方がいるんだ。

 企業戦士さん、やっちゃってください!」


企業戦士はいつものように強力な魔法を使う……はずが、

最大の敵を前にしてすくんでしまったのか動かない。


「あ、あれは……」

「おいどうしたんだよ企業戦士!」


「だめだ……これは勝てない……」


「大丈夫だよ。お前は今ままであんなに強かったじゃないか!

 この敵もお前の力を持ってすれば倒せる!」


「無理だ……絶対に勝てない……だってあれは……ジョウシなんですよ!」


ジョウシ。

企業戦士の天敵かつ最大の弱点と呼ばれるモンスター。


「そんな軟弱な企業戦士を味方に息巻いていたとはいい度胸だ。

 くらえ! キョウセイ=ノ=ミカイ!!!」


ジョウシが唱えた究極召喚魔法で企業戦士はいろんな場所に振り回される。


「どうしたんだよ! あの魔法くらいお前の敵じゃないだろう!?」


「ダメです! ジョウシにだけはっ……!」


「フハハハハ! 無抵抗のまま死んでゆけ!!」


「くっ! ユウキュウキュウカ!」

「却下」


「イクジキュウカ!!」

「却下」


「ケイチョウキュウカーーッ!」

「無駄だ! そんな魔法、私にはきかない!」


「そ、そんな……!」


あらゆる魔法を駆使してもジョウシの一存ですべてが無効化されてしまう。

これでは企業戦士も本来の力を出すことすらできない。死ぬしかない。


「も、もうダメだ……やっぱりジョウシには勝てなかったよ……」



《 あきらめないで 》



「この声は!?」



《 あなたの肌あきらめないで! 》



《 あマイク入ってない 》


『あきらめないで! 私を使うのよ!』


「き、君はいったい……!?」


『私はオ・フィス=ソフト。PC(パーソナル・ココロ)の中に住む妖精。

 そして企業戦士の強い味方よ』


オ・フィスを見た瞬間にジョウシの顔色が一気に変わった。


「や、やめろ! それを近づけるんじゃない!」


「これはいったい……!」


『ジョウシとはセダイが違うのよ。だから私に対する耐性がないの。

 紙での攻撃はジョウシに効かないわ。近代ツールで倒すのよ!』


「な、なるほど!」


企業戦士はふたたび立ち上がる。

その背広の下にみんなの思いを背負って。


『さあ、このタブレットを受けとって!!』


「ああ! これを使えばいいんだな!」


「やめろ! そんなよくわからないものを持ってくるんじゃない!」


企業戦士はタブレットを受け取った。

タブレットには近代魔法オ・フィスだけでなく、

ジョウシを倒すあらゆるソフト術式が組み込まれている。


『行くのよ! 企業戦士!』

「企業戦士! いっけぇぇーーー!!」


「うおおおおおお!! くらえええええーーーー!!」




企業戦士はタブレットを使いジョウシを殴りつけ見事勝利を収めた。

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