命の自主回収ができたのなら

ちびまるフォイ

こんな子に育てた親が見てみたい

「だから、どうしていつもそうなの!?」

「俺は最初から望んでなかったんだよ! なのにお前が……!」


時刻は深夜1時。

両親の怒鳴り声でうっすら目がさめる。


最近は毎晩口論が絶えなくなっている気がする。

そのまま眠りに落ちる。


翌日、珍しく両親が2人揃って食卓に座っていた。


「あのね、ちょっと話したいことがあるんだけど……」

「大事な話だ。ちょっと座りなさい」


かしこまった空気感に緊張する。


「実は昨日ふたりで相談してね、あなたの命を回収しようと思うの」


「え? 回収?」


「知らないのか。命は親の権限で自主回収できるんだぞ」


「ちょ、ちょっとまってよ! てっきり離婚の話かと思ってたのに!

 どうして!? どうして私の命が回収されなくちゃならないの!?」


「あなたが生まれてからというもの夫婦でケンカが絶えないのよ。

 それってどう考えても、あなたが原因でしょう?」


「いやその言い方はよくない。ただ、俺達にも責任はある。

 育て方の選択をまちがえてしまったんだ」


「でね、自主回収すればまた子供が生まれ直すから

 今度は間違えないように育てようねって話になったの」


「私なんも話聞いてないよ!?」


「こんな話、あなたに話してもわからないでしょう」

「それに小学生と大人とじゃ判断材料も見ている世界も違うからな」


「自主回収なんて絶対イヤ!!」


私は家を出た。はじめての家出だった。

こんな形で家を出るとは思わなかった。


友達の家に連絡すると事情を察した友達が部屋に入れてくれた。


「それは……ひどいね……」

「でしょ? ホント信じられない」


「でもこれからどうするの?」

「どうって……」


「うちは全然泊まってもらって構わないんだけど、

 やっぱり親がなんていうか」


「私を自主回収しようとする親が心配なんてしないよ!」


「じゃなくて。うちの親ね」


1日2日なら「友達が泊まりに来た」で済まされるが

それが何日も続くとなると流石に家出だとバレる。


それに毎回食事を食べ続けるわけにもいかないだろう。


「でも……このままじゃ私自主回収されちゃうんだよ?」


「うちだってかくまってあげたいけど……」


数日泊まったあとは覚悟を決めて公園で寝泊まりすることにした。

ホームセンターで必要そうなものを買って公園のベンチへと座る。


「君、なにしてるのかな?」


顔をあげると警察官が立っていた。


「ひとり?」

「いや、その……」


「もう夜遅いから家まで送ってあげるよ」

「いいです! 家はいいです!!」


私の焦りように何かを感じ取られてしまった。


「お家のひとは、君がここにいること知ってるの?」

「……」


「家の電話番号は?」

「……」


「君ね、家に帰りたくない理由でもあるの?」


「自主回収されるから……」


「なるほどね。でも、君はここでひとりで生活できると思ってるの?」


「それは……」


「小学生じゃ仕事もバイトもできないでしょ。

 ここで空き缶売って暮らすなんてできない。

 その上、最近は子供を狙った犯罪が多発しているんだよ。

 こんな環境で君は一人で誰の手も借りずに生きていけるの?」


「……」


「はやく家に帰りなさい。ご両親もきっと心配しているよ」


「私がいらないから自主回収するんですよ!

 あなたは私が回収されてもいいんですか!」


「きっと君は親の愛情に飢えているんだね。

 それで気を引きたくて家出をしたのかもしれないけど」


「私の悩みを勝手に解釈しないで! 私は回収なんてされたくない!」


「ほら、早くパトカーに乗って。君が望む望まないにかかわらず君は家に送る。

 その先は私の管轄外だ」


パトカーは無慈悲にも発進した。

私はすべてに諦めて道案内をした。


「ここでいいです」

「ずいぶん遠くまで来てたんだね」


家につくと私は事情を話した。

しばらくして両親がやってきた。


「ああ、帰ってこないから心配したのよ」

「親に迷惑かけるなんてどういうつもりだ!」


「この子を叱らないで。こんな風に育てたのが悪かったのよ」

「そうだな。次の子供はもっとちゃんと育てよう」


両親は次はピアノを習わせようとか、クラシックを聞かせようとか

赤ちゃんのころから同年代の友達に合わせようとか次のことを話している。


「もう私はいらないの?」


「いいえ、そんなことはないわ。でもあなたがいたから、

 この失敗を次に活かすことができるのよ。必要だったわ」


「親の権限でお前を自主回収するがこれは悪いことじゃない。

 今度はもっと大切に、愛情を与えて、理想の子供に育ててやるとも」


「そう……」


命の自主回収が行われた。





両親2人が消えると、話を聞いていた祖父母は怒りで紅潮していた。


「まったく、なんて奴らだ。もっと早く回収していればよかった」

「私達の育て方が間違っていたのね」


「今度は私が二人をちゃんとまともな親に育てるよ」


私は自主回収された2人を実家で大切に育てることにした。

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