VIPLESS

エリー.ファー

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 小説を書いている。

 真夜中である。

 時間にして日付は変った頃である。

 夜は、もう過ぎ去ってしまうだろう。

 窓の外には流れ星が見える。月も。太陽も。地球も見える。

 この場所から物語を落としていく。

 時間はない、締め切りというものがある。

 私にはそういう意味でも時間がなく、当然、私以外の者たちにも時間がない。

 不憫なものである。そういうものなのだ。

 世界は間もなく壊れるのだそうである。

 そう。

 良く知らないが。

 最後に残った娯楽は物語だった。

 地球が壊れず、人類が死に絶える、そうはならないあり得ない未来を言葉の上で作り出すことだった。可哀そうに、それでしか、人は生きていくことができなかった。

 私は物語を作り出すことが非常に上手かった。

 だから、結局この役を仰せつかったが本当はこれが特権階級であると思わせて、世界中の人たちから金を巻き上げることくらいにしか意味はない。

 ただ。

 そういうものとは別に自分がどれほどの価値なのかが知りたくなる夜だったのだ。何度も何度も、自問自答を繰り返し、本当の言葉を作り出す人間になれているのかが知りたかった。

 誰も知らない。

 そういう、誰かになりたかった。

 色眼鏡などない。本当の答えや実力を見つめて欲しかった。

 この真夜中の物語は、あえて作り出すことなど何一つせず、自分の生き方を肯定するための時間だ。私が私のことを社会的に見える地位に押し上げて、何を感じられるかが全てであった。

 私は。

 そうやって。

 わざわざお金にならないことをすることで、本当に価値があるかどうかを知りたかった。

 金になるすべてを、ただ、むやみにばらまくことで、価値を見出したかった。

 本当は。

 本当はどうとでもなるのに。

 汚い手など、それこそ、よりよいとされる人間関係など、どのようにでも使えば、報酬など幾らでも吊り上げられた。

 満足していたのだ。

 なのに。

 こうやって、飛び込んだ。

 わざとらしく、沼にはまってみせたのだ。

 舌をだしておどけているはずなのに、この時間がどれだけ懐かしく、どれだけ楽しく、どれだけ尊いのかを自分に理解させるばかり。

 小説を作り出すために、打ち出した文字の羅列は気が付けば、私の人生そのものになっていた。思い返せば、こんなにも遠くになる自分の影を、わざとらしく薄く引き伸ばしながら愛している。

 この回り道が。

 私だったのか。

 私は今日。

 いや。

 今夜。

 本当に社会の中で生きる私に出会っているのか。

 いつか、何もかも消えてなくなってしまうこの時間の中で、今日も自分の指先を削りながら物語を作り出すことが、煩わしささえも全て消し去る最高の娯楽なのだ。

 脳みそも命も、心臓の鼓動の音も削らない。

 何一つ削らず、文字を刻んで、人を愛している。

 私はおそらく。

 今、この瞬間。

 この地球上の誰よりも。

 人を愛している。

 そして。

 自分のことを誰よりも愛せている。

 もう、日付さえ超えたのに、誰も私のことを一切知らずに、芸術だけに触れている。何もかも、フィルターの全てを引き裂いて、分かりやすい表現と、実力だけが残る。

 こんなにも。

 こんなにも。

 こんなにも、私は自分に埋もれている。

「間もなく、締めきりです。気分は如何ですか。」

「今、趣味の詩を書いていた。」

「締め切りを守ってください。」

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