第26話 Reforcus




-あ…-


-バッテリーか?-


-最近帰れてないしなあ、平和クラブのリーダーになっちゃったし-






-絵的にはいいとこだけど…小林さんがやばいな…どうする?-




a 観測者を続ける


b カメラを下ろす


-そんな選択肢が俺の脳裏をよぎった-



---選択肢bを選択---




もういいよな?




もう我慢出来ない。




俺の名前は岩渕詠柊。


この物語の観測者…


だった男だ。




観測者なんて元々性に合わないんだ。

日記もすぐ辞めちゃったし。


臨時カメラマンの仕事なんてクビでいい。


食いっぱぐれても、ダチは裏切らない。


お前がくれた、大事な言葉だよ。



…心のどっかで止めて欲しいから、こんなになるまで俺を無視してたんだろ?



なあ、亮太。


俺はこの一眼レフで、お前の片目になるって決めたんだ。


右目、覚まさせてやる。



ポケットから飴玉を取り出し、口に放る。

口いっぱいに広がる甘さが、勇気をくれる。

間髪入れずに、タバコに火をつけた。


詠柊「ふう…」


亮太に吸わされて以来手放していないショート・ホープ。


そのキツいタールが、飴玉と混ざり合い、踏み出す推進力に変わる。


岩渕 詠柊「ステルス・エントリィ!!!」


信者「な、何ィ!?!?」


信者「う、うわっ、なんだこいつッ」


詠柊「離れろォ!」



寛子さんに近づく白衣の信者を牽制する。





朧「カメラマン…妙に大人しいと思ってたら…!」


犬養「チッ、またイレギュラー…なんて日だ!…はっ、雰囲気に飲まれている!?」



朧「やっさん…?と、とりあえずこの人、厄介だって…」


俺は撮影機材を全て下ろし、構えを取る。


福耳のマスター、ママ師匠に教わった雷虎流の構えだ。


小林「ああ!!!やっとカメラ止めてくれたァ…死ぬかと思ったんだよ!…あ、安心したら膝が、」


寛子さんは膝をガクガクさせながら訴えた。



そのまま寛子さんの腕を取り、引き寄せる。



小林「きゃっ!ちょっ、」


寛子さんはバカスカと俺の肩を叩く。



詠柊「いでっ、ごめ、ごめんなさいって!…やっぱほ、ほ、ほ、惚れた女くらいは?守らないと!と、思いまして…?」


お人好しヤクザに化けて出られるから。


小林「なっ!?惚れ!?」


瞬「お、男たるもの、ほ、ほ、ほ」




小林「キョドるくらいなら言わないで下さい!…なんかエーちゃん、キャラ違うわよ!?」



詠柊「もう、冷静で居られない…猫被っててすいません。俺、馬鹿なんですよ」


小林「馬鹿なのは知ってますけど…」


詠柊「酷ォイッ」


小林「だって戦場カメラマンとか、危ないです」


詠柊「…姉属性、最高」



犬養「な、何なんですか、このカメラマンは」



朧「わ、私もよく分からない…ウルトラマイペースという事しか」



犬養「と、とにかく!処理!まとめて処理だ!」



信者は凶器を構え直す。



詠柊「凶器と狂気…韻が踏める、かな?」


亮太が言いそうなダジャレだ。


詠柊「…?あなたは…」


彼女もそんな寒いダジャレを連発する奴に、心当たりがあるようだ。


オボロリサさん、かあ。


君が作ったモニターと自前のレンズで…大体全部見てたよ。


あそこで差し入れたスーパーのおしるこ、亮太はtritterで文句付けてたっけ。



小林「ね、ねえ、エーちゃん。どうするつもりなんです??」



フラつく小林さんの肩を支える。



詠柊「うーん。とりあえず話してみようかな」


小林「話が通用する相手じゃ…」


詠柊「同じ人間だよ」


通じなきゃ、そん時はそん時。


犬養「その構え…シャッター街の能面か?」


詠柊「あんときはすいません。ケンが銃なんて持ってたから、つい」


朧「…やっさん」


犬養「ええ、彼は私達には荷が重い」



詠柊「争うつもりはないんだ。小林さんと俺、逃してくれたら嬉しい」



犬養「悪いですが、こちらにも正義があります。散って下さい」


メガネの案内役…犬養が合図すると、研究棟内の信者か武装を持ち直した。


犬養と朧は研究棟を去って行った。



詠柊「正義の反対は別の正義、か。分かったよ。恨みっこなし…って訳にも行かないよなぁ」


信者「ハァーッ」


俺は信者の振り下ろしたビーカーを回避する。


詠柊「…」


間髪入れずに掌底を打ち込む。


信者「うぐぁっ」


空振りのビーカーは机に当たり、ガラスを撒き散らす。


小林「痛ッ…」


寛子さんの頬に、破片がかすり、血の筋が垂れる。


詠柊「寛子さん、走れる?ここはなかなかにマズい」


小林「た、多分…」


出口を塞ぐ信者に向き直る。


詠柊「…行くぞ」


信者「…らァァァ!」


詠柊「謝らないよ」


打撃音が2つ、宙を舞う。


信者「グハッ…人でなし…ずっと見てた、くせに…」


詠柊「よく言われる」



出口を塞ぐ2人を戦闘不能にし、小林さんに声をかける。



詠柊「ここは俺が食い止めます。外に健介達がいると思うから、合流して」


小林「け、健介!?なんでッ」


詠柊「質問は後!行って!」



小林さんは研究棟から外へ走っていく。



詠柊「あと5人。俺に恨みを持つ覚悟が決まった人から、来てよ」



信者「ウラァァァ!!!」


舐めていた飴玉を噛み潰した。



詠柊「はなまるのスタンプよりも…強烈だよ」





俺は亮太を止める。


あいつの今までを見届けてきた、俺が。


人が道に迷うとき、出来る事は一つしかない。

腹を括るんだ。


今度は一人で…



怒れ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る