14mg

柊木葉

VERSE1 Out of Forcus

第1話 始まりとスタンガン



20XX年


11/11


23:59



私の記号は観測者。


事象に憶測や感情によるフィルターをかけない為、

記憶と記録を許す限り、ここに記す。

私の記号は観測者。


特定の誰かであってはならない。


これから始まる事象は”俺”や”僕”、”私”の目には映らない。




私の記号、



…否、私は”私”であることすら捨てよう。


全てを見据える静かな瞳として、世界を観測する。


その時が、来ない事を祈りながら。




秒針が重なる。




さあ、はじめよう。



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--------------------




【実現会施設内1 プレハブ】




リポーター「…我々取材班は現在、団体の施設内に撮影許可を得て、真導実現会の未公開の内部に入ろうとしております。

長期間の取材を経て、そこに居る人々はどのように変わり、どのように自分達の存在を捉えているのでしょうか?それでは再び、中に入ってみたいと思います」


???「…どうぞ」


実現会幹部であり、メディア露出時の案内役を務める犬養が、第四ワークプレイスの扉を開ける。

プレハブを改築したようなボロい見かけによらず、厳重なセキュリティだと、リポーターの小林は密かに感心していた。


小林「重い扉です」


犬養は焦点が合っているようで合っていない、ここに居る人々特有の目を光らせ、神妙に頷く。

小林はこの場所が得意ではなかった。

リポーターとしても、小林寛子としても。


病的な白さ。

そんな空気が漂っている気がした。


小林「犬養さん、ここは…」


リポーターとカメラマンの眼前には、連なる高い本棚。

大量の書物やデータディスク、今や見ることもなくなったビデオテープが小綺麗に陳列され、収められていた。


犬養「積んで来た徳を、集積しています。簡単に言えば過去、現在、未来。全て1つの徳なのです。

それぞれのワークプレイスがあります。

この場所は過去に当たる」


小林「では、あと2つ、同じような場所が?」


犬養はほんの少し、顔をしかめたように見えた。

以前の取材でもこの男に案内をされたが、暗い雰囲気とは対照的に饒舌で、思考が読めない。



犬養「…ええ。現在に当たるのは、以前案内させて頂いた…」


小林「センタネル」


犬養「ええ、ええ。そうです。センタネルでは、サードアイを…これは前にお話しましたね」


張り付いたような笑顔を浮かべていた。


そのセンタネルには以前小林も足を運んだが、実現会の表の顔という印象。

老若男女が修行をしているのだが、その異様な光景は、確かに17年前の面影を残していた。


そして、今足を踏み入れている場所は、裏の入り口なのかもしれない。



小林「では、未来に当たるのはどちらに?」


犬養「あなたは…未来を知っていますか?」


小林「え?」


犬養「これから起きる事が、手に取るように分かりますか?」


まずい、と小林は思った。

興味がないかと言えば嘘になるが、今は仕事中。

電波話に花を咲かせている時ではない。

雰囲気に飲まれないように努める。


小林「分からないです」


犬養「そういった場所なのです。思念の干渉も避けたい…高次の存在にのみ、立ち入りが許されています」


小林「そ、そうなんですね、」


もしかして、姿を見せないと噂の教祖はそこに…?

小林の頭に一瞬そんな個人的興味がよぎる。

今は、少しでも多くカメラの前で事実を伝える事が私の仕事だと、言い聞かせる。

カメラマンも忙しなく腰袋を弄ったそのままの手で、”巻き”の合図をしている。

同じ気持ちなのかもしれない。


小林「では、そろそろ奥に進んでもよろしいですか?」


犬養「では、階段から二階へ。足元に気をつけてください。暗いので…」


ここの人々は例外なくよく気が利いた。

それがまた、小林にはむず痒い。


やはり小林はこの”真導実現会”が苦手だった。



小林「は、はい…本当に暗いですね…きゃっ!」


考え事をしながら暗闇を歩いていると、小林は言われたそばから足を何かに引っ掛けた。



小林「す、すみません!何か倒れ…」


足を引っ掛けた線に力が伝わり、ゴミ箱が倒れる。



犬養「ちっ…」


小林「…?な、なに、あれ…?…うっ、臭…」




その線の先にあるゴミ箱から、"何か"が、溢れていた。


犬養「センタネルの洗礼の儀に使用する、マネキンです。古来より人形には、魂が宿ると言われ、修行者のカルマを集積するのです」


小林「で、でも、臭いが…」


犬養「…すみません。センタネルの長時間修行の関係で、生ゴミを溜め込んでしまって…申し訳ございません」



???「…うぃっす」


途中、暗闇で誰かとすれ違ったが、犬養は気にしていないようだった。


振り返ると、スマホの光が煌々と闇を照らしていた。



【施設内 2 研究室】



次に案内された場所は、先程とは打って変わり、清潔な場所だった。

数人の白衣を着た人々が作業をしている。

何か理科的な香りを感じる。

その佇まいは小林が在学していた大学の研究室を思わせた。


同時にあの頃持っていた信念を思い出し、気を取り直す。

真実を伝えたい。


その想いから、社内で危険だとさえ言われたこの仕事を率先して受けたのだ。

この仕事は実現会からの制約で、2人までしか現場に立ち入る事が出来ない

許可を得たのは小林と、カメラマンだ。


小林「ここは、何かの研究を?」


犬養「研究…というのは少し違いますが、人々の徳を積む手助けになるでしょう」


小林「可能な限りで、もう少し具体的にお願いします」


犬養「…例えるなら、サプリメントです」


小林「なるほど…健康食品のようなもの、という事ですか?」


犬養「結果的にはそのようになります」


小林「なるほど…ん?」


その時、およそその場所に似つかわしくない臭いが小林の鼻を突いた。


犬養「あー…少しお待ち下さい、何回言えば」


小林「え、ええ」


犬養は服に装着していた無線機を白衣の女性信者に渡した。

地味に最新型のBluetooth搭載型だと気付いてしまい、小林は文明と宗教の狭間に戸惑った。


何者かと連絡を取らせているようだ。

緊迫した様子は伝わって来ない。

まるで子供をあやすような声色だった。

インカムの為、会話は聴き取れない。



女性信者「前も言ったけど、そこ上に臭い来るから、うん、うん、そうそう、換気口壊れてるかも。いやさ、辞めろとは言わないよ…せめて…え?それは凄いね!どんどん徳を積むなあ。お疲れ様。やっぱり君は予言の子なのかも…え、お金ない?そんなの買ってあげるわよ、待っててね?一緒にごはん、」



ブチッという、通信が切れる音と共に犬養は無線を回収し、不快感を隠さなかった。


犬養「控えて。不純です」


女性信者「やっさんは見かけによらずムッツリなんですから~、それにそれは昔の戒律でしょ?」


犬養「…作業は」


女性信者「だいじょび、だいじょびですよ~。予定どおり!」


女性信者は明るくふんわりと笑う。

白衣と研究室は似合うのに、ここではどことなく浮いているように思えた。


犬養は小林に向き直る。


犬養「今日は大切なヴィジターがあると伝えたはずなのですが、申し訳ありません」


小林「いえ、お気になさらずに。次は…」


その瞬間、室内に無数の異様な音が飛び交った。



小林「ッ!?」


脳が認識すれば、小林にも聞き慣れた音だった。

カメラに向き直る。リポーターとして。


小林「…通知音ですっ、スマホの通知音のような音と、無数の振動が、施設内の至る所から…」


犬養「…」


犬養を含めた信者は熱心に取り出したスマホを見つめていた。

その表情は、恍惚と言って差し支えのないものだった。


小林「犬養さん、こ、これは一体」


その瞬間、犬養の虚ろな瞳が妖艶な光を宿したのを、小林は見逃さなかった。


犬養「取材は、中止です」


小林は腕時計を確認する。


小林「そっ、そんな…制約ではまだ時間があります!」


犬養「中止です。これもシヴァ神の導きでしょう」


食い下がる小林を他所に、信者達は次々と立ち上がり、詰め寄る。


小林「…くっ、」



だが、小林は肌で感じていた。

リポーターとしての歴は決して長い方ではないが、それでも幾許かの修羅場は潜り抜けてきた自負があった。


その経験則…アノマリーとでも言えるような感覚が告げるのだ。


何かが、何か大きな事件が幕を開けようとしている。


カメラマンと目を合わせる。

彼は落ち着き払っている。

カメラを下ろす気は更々ないらしい。


自らの意思で中東に渡り、数々の戦場と現実をそのレンズに焼き付けてきた彼もまた、小林と同じ感覚を共有している気もした。



小林(私が、やらなきゃ…)


使命感。

繰り返させてはいけない。

もう、あんな事は…


小林「今、何が起こっているのですか!?先程の通知音は?昨今噂されている教祖再誕、街で毎日のように起こる未解決事件、一部若者の間に蔓延する異様な空気…あなた方の目的を教えて!」


足は震えていた。

それでも、後方から感じる強い意思の力が、小林を奮い立たせていた。


犬養「この国のメディアは、虚の電波ばかりを発信する…あなた方がしている事は、俗世から見た私たちのイメージと何も変わらない。そうは思いませんか?」


小林「…それはっ」


小林は言い返す事が出来なかった。

全ての真実が伝えられていたならば、小林もリポーターになろうとは思わなかっただろう。


犬養「…あなたは少し、違うようだ。カルマを背負い、目を背けない強さ。私たちは貴方のような清らかなアニマを歓迎しますよ」


小林「…だ、だったら!…真実を!真実を伝えてください!カメラに!私達はその責任を持ちます!」


犬養「…」


犬養は思案している。

そう見える。

小林はその状態を知っていた。

自分で考える事を辞め、誰かの指示を待つ…そんな現代社会の人々にありふれた状態だった。


その時、先程の女性信者が唐突に開口する。

先程の明るい雰囲気が消え、影を帯びた表情。


女性信者「…救いの光を、見ましたか?」


小林「い、いえ」


小林は最近見た光を連想する。

何か引っかかったが、素直に耳を貸すジャンルの話ではない。



女性信者「ほんの少し前に、貴方はその光を見たかもしれない」


小林「…あ、下でスマホが光ってた…いや、そういう事じゃないですよね」


小林が自嘲気味に呟くと、犬養が先程の無線で何やらまくし立てる。


犬養「…慈眼から、導きの合図です」


犬養は室内の信者にハンドサインを送る。


小林「ひっ、」


同時に、信者達は距離を詰めて来た。

手には各々、凶器になり得るものが。


階段からは複数の足音が迫っていた。


小林は悟る。

状況を、運命を悟る。


小林(ああ、お母さんのシチュー、もう一回食べたかったなあ…ごめんね、健介、だらしないお姉ちゃんで…)


小林「…最後に1つ、質問いいですか?」


それは、小林のリポーター人生を賭けた、文字通り最後の質問だった。


女性信者「どうぞ」


その内容は、17年前の事件を追い続け、小林が、その残党から感じたもの。


小林「…あなた方は、何に怯えているのですか?」


女性信者「12月25日…太陽と月が交わる夜。力学の中心は東の都に集まり、北の邪心は目覚めるであろう。2つの瞳は支配し、偽りの黒煙に大地は揺れるであろう」


小林は息を飲む。

世紀末に流行った詩を起想させる。

そして、次に紡がれる言葉を想像するのは、容易だった。



「世界は、終わります」




---------------------



【施設内部 階段 】



対馬亮太は辟易していた。


近頃置かれた新しい状況と、それに即した精神的ストレス、寄せては返す頭痛。

さらにそれに即した不眠症、安タバコによる喉へのダメージ等…


亮太「あ゛、あ゛ー我゛々はー宇宙゛人…」


宇宙人と関わり、胡散臭いヒエラルキーの中で、宇宙人の振りをしているのが、今の彼の仕事だった。


亮太「地球に還りてえなあ」


魂の叫びだった。

このデンジャラスな宇宙をデブリのように漂っていると、考える事を辞めたくなった。


亮太「地球星日本国、応答してくださ~い。銀シャリ送って、Amazonとかで…あー腹減った…」


つまりは、状況を一言で説明するなら

紛れもなく”金欠”だったのである。


施設の白い非常階段と、吐き出す白い煙だけが、彼に安らぎを与えた。


亮太「ふぅー………」




誰かが近付いてくる気配を感じたが、なけなしのリラックス棒を踏み潰すような気力は、無かった。


女性信者「…」


亮太「誰、あんた」



-結構可愛いな。胸部にブラックホール×2、危険だ…-


女性信者「またここで吸ってるんだ」


亮太「お得意のエスパーで?」


女性信者「残念。無線」


亮太「あー、嫌ね、あれ嫌。プライベートが無いとダメなタイプでね。見逃してよ、信心深さに免じてさ。残念無念ってね」


女性信者「別にいい」


亮太「へえ、あんたなんかポップじゃん、他の連中よりさ」


女性信者「そういうあなたも違う。目が違うもの」


-同業者か…?マズったな-


亮太「まあ新顔同士、仲良くしようよ。心配しないで、不純じゃないからさ」


吸いかけの煙草をひらひらと泳がせながら、亮太は女の表情を注視する。

感情を抑圧している厄介なタイプだと、亮太は分析する。


女性信者「名前は?」


亮太「人に名前を聞く時のマナー、喫煙者のマナー、似てると思わない?」


女性信者「…朧 理紗」


亮太「変わった名字だね。オボロリサさんかあ、よろしく」


亮太は手を差し出す。


理紗はそれをたどたどしく握り返す。


手を握る強さ、温度、目線、その他諸々の独学で身につけた読心術を駆使するのが、

亮太が握手を求める意味だった。


亮太「ここじゃ長谷川で通ってる」


理紗「ありがとう、連絡先は?」


やけに積極的な女だ。

この場合2パターンある。

一つは、頭のネジが月にブッ刺さったまま置き去りのメンヘラちゃんであるパターン。

もう一つは…


亮太「はい」


理紗「…フリーメール」


裏があるパターンだ。


亮太「なんかあったら連絡してよ。まあ、ここにもよくいるからさ」


理紗「わかった、またね」


亮太は仕事柄所謂人を見る目は肥えている方だと自負していたが、理紗の後ろ姿を見送りながら、手をつねった。


亮太「狐につままれた」


右手で作った狐のオブジェが、虚しく宙を仰いでいた。



狐はそのまま、彼の左胸に向かう。


亮太「しかし、だせえバッジだ…」



理紗も付けていた安っぽい缶バッジを指で弄ぶ。


このロゴ入りバッジは、信者は愚か取材スタッフにまで装着を義務付けられている。


同じ服装やバッジを共有させることで集団心理を煽っているのだと、亮太は考える。


バッジに限らず、この教団に定められた細かいルールは、緻密な計算の上に成り立っているように思える。


亮太「尼斑、か…」


前教祖の行いは褒められたものではなかったが、しかし、亮太は賞賛に似た感情も抱く。


亮太は自分の内に内包されたものを解放するべく、SNS「Tritter」を開く。




リョチゲ@ryo_chige


11月11日はポッキーの日だったわけだけど、ちゃんと今年も11回シコったよ

みんなはどうかな?ポリポリ



投稿ボタンを押すと、数秒で多数のレスポンス。


亮太の趣味はラップ楽曲製作だった。


その楽曲を動画サイトにアップしたところ、最初は鳴かず飛ばずだった再生数が、ある時期を境に急激に伸び、平行してSNSのフォロワー数も加速度的に増えていた。


亮太「…」


言霊の力を信じている彼だったが、その伸び方に違和感を覚えているのも事実だった。


仕事終わりにSNSにリリックを書き連ねる事が、彼の中で儀式のようになっていた。


亮太「…ここでは光がよく見える」


それらしい事を独りごちると、この施設に蔓延する白い病に毒された気がしてくる。


亮太「いかん、遺憾」


中央祈祷場、通称”センタネル”に顔を出し、帰路につく事を決める。


センタネルも自宅も、同じように鬱屈した空気が流れていて、気が乗らない亮太だった。




【施設 裏】



センタネルで道化を演じ、また一つ魂が欠損したような感覚に苛まれながら、いつものように裏口から外に出る。


表から堂々と出入り出来る立場ではないのだ。

はじめは表から入っていたが、そのせいでえらい目に遭った教訓を彼は忘れない。


亮太はこの”巴楽町”で、多少顔が広い。


所謂「ヤンチャ」な方々にも、所謂「お水」な方々にも。


その方々に手痛い襲撃を受けたのだ。


この仕事は、依頼主の鍵和田昌悟との「内密に」という契約を元に遂行しなくてはならない。


故に、


チンピラ1「亮太サン、宗教に魂売ったってマジすか!?」


キャバ嬢「リョウちゃんひっど~い、よくわかんないけどぉ」


チンピラ2「亮太サン!正気に戻ってくれ!」


柿ピー「それより柿ピーたべない?パチ屋の景品だけど」


チンピラ1「そういやこないだパチ屋で貸した金、忘れてないすよ!おのれゴルァ!」


チンピラ3「頭ぶっ叩いて目を覚まさせてやろう!俺たちで洗脳を解くんだ!…うわっ、なんだこれ、スプレー?」


チンピラ123「目があアアアアアアアアアアアアアアアア」


キャバ嬢「あ、逃げた」



…等、調子が悪いブラウン管のような不当な扱いを受けても、自己弁護が叶わないのである。


亮太「つか、さりげなく回想に登場した柿ピーって誰だっけ?」


最近記憶力の衰えを感じる亮太だった。


あの時のような惨劇を繰り返さぬよう、裏口からの出入りを徹底していた亮太だったが、



亮太「実現会風に言えば…引き寄せの法則?」


亮太の通勤愛機であるバイク、ヴェスパの”ヴェスたそ”に手をかけた時には、周囲を囲まれていた。


亮太「…カギさんのとこの奴らじゃないな」


チンピラ風の若い男、数は2。

見た所素手。

その後ろに能面のような物をつけた素っ頓狂なヴィジュアルの人物。


能面「…鍵和田の命令か?」


能面の人物は、ボイスチェンジャーを使っているらしく、シルエットもあいまって男女の区別がつかない。


亮太「ダースベイダー?」


能面「質問に答えろ」


亮太「主語と述語も教えないわけ?最近の学校はさ。それともシャイなのかなあ?御尊顔はさぞ麗しゅうございまし?」


亮太の煽りに対し、能面の人物は僅かに空気を震わす。

怒りを表すボディサインを亮太は見逃さない。

プライドが高く、感情に流されやすいタイプ。備考レベルで顔へのこだわり。

髪を隠しているにも関わらず、ストレスを感じた途端、利き腕が頭部方向に向かおうとした。

そして、その位置は、丁度女性のミディアムヘアの先端周辺。


髪を触る癖、男女比率。

圧倒的な差があるのだ。


亮太「お前、女だろ?」


能面「…ッ」


亮太「いいケツしてるもんなあ」


表情が見えなくても、彼の読心術は健在だった。


能面「…真導実現会に出入りしているのは、与那嶺組の鍵和田の命令か?」


亮太「お勉強がよく出来た子には、はなまるのスタンプを押してあげなきゃね」


腰袋に手を当てた亮太を見るや否や、チンピラは踏み込む。



男「ううあッ」


スイッチひとつで屈強な男は地に伏せた。


亮太「次は理科の時間です。雷とK1ファイターの拳、速いのは…」


男2「スタンガン…ど、どうする、姉御?」


能面「…仕切り直す」


亮太「案外冷静なんだね。ところで好きなK1ファイターとかいる?俺はマーク・ハント、特に最初のミルコ戦が…」


亮太がベラベラと話すうちに、気配は消えていた。

関係ない話を始めるのも、離脱の常套手段だ。


亮太「ドロン○一味かな」


去りゆく一味を横目に、亮太は青い煙を燻らせた。

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