妄想ファンタジスタ

おかえりカノン

　「とあぁぁぁぁぁっ！」

　戦う仲間達の間を抜けて、僕はニセシュンスケを目指す。

　「ちぃぃぃぃ！」

　再び漏斗を出現させ、僕にビーム攻撃をしてくるニセシュンスケ。しかし、そんなものはもはや通用しない。МＴフィールドでも愛フィールドでも名前なんてどうでもいい。兎に角バリアっぽいものを出してこれを防いでニセシュンスケに接近する。

　「小癪な！」

　ニセシュンスケが自分の体の前に漏斗を移動させた。しかし、僕は構わず突進する。漏斗からビームが発射されたが、僕の体の直前で消滅するか反射する。それどころか、バリアっぽいものに触れた瞬間、漏斗は爆発を起こしていった。

　「どっちが小癪だ！」

　ニセシュンスケを殴れる距離になった。僕は右拳を思いっきり引き、ありったけの力を込めてニセシュンスケの顔面に叩き込んだ。

　「ぐはっ！」

　僕に殴られ膝をつくニセシュンスケ。しかし、倒れこむことなく、すぐさま反撃に出てきた。

　「ぐふっ！」

　下から突き上げてきたニセシュンスケの拳が見えた。紙一重のところでかわせると思ったが、わずかに遅かった。ニセシュンスケの拳が僕の顎を捉えた。顎から脳天に向けて激痛が走る。しかし、僕も倒れこむような無様な真似はしなかった。顎でニセシュンスケの拳を受け止めたまま、そのまま額めがけて顔を振り下ろした。

　ごつ、という重い金属がぶつかり合う鈍い音が響いた。奇妙な声をあげながら額を押えて蹲るニセシュンスケ。やったと思ったのも束の間、一瞬意識が遠のいた。そのまま崩れてしまいそうだったが、何とか意識を保つことができた。

　「馬鹿か！頭突きなんからしたら、自分にもダメージがあるだろうに！」

　うう、と唸り声と交えながら悪態をついてくるニセシュンスケ。相当のダメージを受けているようだが、僕にも相当のダメージがあった。次の攻撃に移れなかった。

　「兄ちゃん！しっかりしいや！」

　ニセシュンスケの分身と戦っているレリーラから激励が飛ぶ。そうだ。レリーラ達の為にも勝たなければ……。

　「このぉ！」

　しかし、立ち直りはニセシュンスケの方が早かった。ふらふらと足元がおぼつかない僕の首をぐっと掴んできた。

　「このまま締め上げてやるよ。意識を失えば、君の妄想も消えるんだ」

　「う、ううう……」

　ぐっと力を入れるニセシュンスケ。駄目だ……抵抗しようにも力が入らない。

　「シュンスケ君！もう見ていられません！私も加勢します！」

　「先輩！今、助けますから！」

　駄目だ。イルシー、紗枝ちゃん。こいつは、君達が太刀打ちできる相手じゃない。

　「小僧！こんなところでやられると、妹さんが悲しむぞ！」

　妹……？秋穂のことか？秋穂なら、一人でもやっていけるよ。

　「ちょっと、勝手にやられないでよ。三日三晩夜の奴隷になるって約束したでしょう？」

　そんな約束したか？ま、したのなら、ちゃんとその約束果たさないとな……。

　「お前がおらんようなったら、この物語が終わってしまうやろ。俺は嫌やで、このまま活躍の場面がなく終わってしまうのは……」

　リンド、すまんな。お前に活躍の出番は……なさそうだ。

　『シュンスケ！』

　カノン……。本当にごめん、助けられそうにない……。君のことが好きで、本当に助けたかったのに……。

　ぼんやりと狭まっていく視界の中にカノンがいた。虚ろで半分目を閉じた状態の無表情なカノン。最後に見るカノンの姿がこれかと思うと、寂しくなってきた。

　『ちょっと！勝手に終わらないでよ！』

　カノン？カノンなのか？カノンの声が聞こえる……？

　『妄想がものを言う世界なら、もっと強く思いなさいよ！私のことを！』

　思っているよ。でも、君は……。

　『まだ足りないのよ！私は、こんなにもシュンスケのことを思っているのに！！』

　『あいつが原作者なんかどうかなんて関係ない！私は、シュンスケのカノンなの！』

　『だから念じなさいよ！自分のカノンだって！』

　カノン！

　『駄目よ！もっと！』

　カノンカノンカノン！

　『まだまだ！私が恥ずかしくなるぐらいに！』

　カノンカノンカノンカノン！戻ってこい！

　「カノォォォォォォォォォォォォォォン！」

　僕は最後の力を振り絞り叫んだ。カノンへの思いを絶叫に託した。

　「シュンスケ！」

　カノンの目がぱちりと開いた。虚ろではない。精気に満ちたカノンの瞳。その瞳が僕の視線と交わると、カノンは瞬発的に跳躍した。

　「シュンスケから離れなさいよ！」

　カノンはそのまま急降下。強烈なキックがニセシュンスケの背中に突き刺さった。

　「ぐわぁぁぁぁっ！」

　「どわぁぁぁぁぁっ！」

　当然ながら僕も巻き添えを喰らった。ニセシュンスケから離れることができたものの、地面を転がり倒れる羽目になった。正直、ニセシュンスケの首締めよりもダメージが大きかった。

　「……う、うう……」

　「あ、ごめん。やりすぎた……」

　カノンがしっかりとした足取りで僕の方に駆け寄ってきた。

　「やりすぎたじゃない！お前の攻撃の方がきついわ！」

　「しょうがないでしょう！手加減できるような状況じゃなかったんだから……」

　手加減しろよ……。でも、それでこそカノンだ。僕の知るカノンだ。

　「カノン、おかえり」

　僕は手を伸ばした。

　「おかえりって何よ。その格好じゃ様にならない台詞ね」

　カノンは苦笑しながら僕の手を握り、体を起こしてくれた。そのままカノンを抱きしめたかったが、僕にはまだ倒すべき敵がいた。