修羅場な文化祭~初日後編~
「では、次の方、どうぞ」
いよいよ僕達の番になった。笑顔が素敵な幽霊女子生徒が入口の黒幕をたくし上げてくれた。僕達はやや屈みながら中に入る。教室内は床に置かれた白熱灯がほのかに光を発しているだけで、おばけ屋敷らしいムードある暗闇が広がっていた。
「教室ってここまで暗くできるんですね」
千草さんが妙なことに関心しながら、一歩先を行く。僕は、ここは男として千草さんをリードすべきだろうと思い、千草さんを追い越して前に出た。
最初の角を曲がると、狭い一本道に出た。天井からはこれ見よがしに落ち武者の生首や巨大な血走った目玉などがぶら下がっていた。
これは上に注意を向けさせておいて、仕掛けは別なところから来ると思いながら一本道を進むと、案の定、両サイドから無数の手がわっと出てきた。
「きゃっ」
怖いというよりも驚いたのだろう。背後で千草さんが短い悲鳴をあげた。くそ、こいつら。千草さんに悲鳴をあげさすなんて、なんて不逞な奴らだ。
「大丈夫ですか」
一本道を抜けきり、僕は振り向いて千草さんに声をかけた。
「ええ、大丈夫です。びっくりしました」
うん。声を聞く限り大丈夫そうだ。安心して先に進もうとすると、柔らかくて暖かなものが僕の右手を覆った。これはおばけ屋敷のからくりなどではない。ち、ちちち千草さんの御手に違いない。
「ち、ちち千草さん」
「違うんです。怖くないんですけど、ほら、暗くて危ないですし……」
強がっているが、かすかに手が震えている千草さん。なんだかとても新鮮だなぁ。
「そ、そうですね。はぐれるといけませんし」
一本道なんだからはぐれるはずもないにの、馬鹿なことを言ってしまった。それだけ僕は舞い上がっていた。
それから数々の仕掛けが僕達を襲ってきたが、びっくりするだけで怖いというほどのものではなかった。それに千草さんと繋がっている右手ばかりに意識が集中してしまい、その他の現象などまるで目に入らなかったのだ。
「あ、もうすぐ出口ですね」
天井からこんにゃくというベタな仕掛け(しかもどちらにも命中しなかった)を抜けて角を曲がると、出口が見えてきた。それまで強く握られていた千草さんの手がやや緩んだ。
「そうですね」
少しでも長く千草さんの御手に触れていたかったのだが、どうやらそろそろ終了らしい。
そこへばっと黒い影が立ちはだかった。僕も千草さんも出口が近いということで完全に油断していた。僕はうわっと叫んでしまい、千草さんはきゃぁぁとこれまでにない悲鳴をあげた。
「フハハハ!油断したな、まだ終わりじゃないぞ……って俊助?」
俊助?僕のことを知っている?それに聞き覚えのある声だぞ。
「誰?」
僕達を驚かせたのは、黒いマントを羽織った狼男だった。かなり厳つい狼男のマスクを被っているのに、声は紛れもなく女性だった。
「誰って、私よ」
狼男のマスクの下から現れたのはやはり狼男……じゃなかった、美緒だ。
「あんた一人でおばけ屋敷に入って……え?千草さん?」
美緒の奴、目ざとく千草さんを見つけやがった。やばい、これは好感度がさがるシチュエーションだ。
「いや、これは、あの、その……」
僕はどうすればいいのかまるで分からなかった。美緒の好感度はさげたくないし、だからといって変な弁解をすると千草さんに悪影響が出てしまう。ど、どうすれば……。
「二人ってそういう関係だったんだ。ふ~ん」
「いや、その、関係って……」
「だって、腕なんか組んじゃってさ」
腕?組んでいる?今更ながら気がついたのだが、千草さんが僕の右腕に両手を回していた。腕を組んでいるというよりも、しがみついているという感じだ。きっと狼男の出現がよほど怖かったのだろう。
「千草さん。ほら、美緒ですよ」
とりあえず千草さんには離れてもらおう。しかし、顔をあげた美緒の顔をしっかりとかかわらず、千草さんは僕の腕を離そうとしなかった。
「はいはい。分かった分かった。さっさと行きなさいよ」
明らかに不機嫌声の美緒。僕を睨み詰めた後、黒幕の内側へと戻っていった。しまった……。これは完全にミスしたぞ。暗くて確認できないが、間違いなく好感度はさがっているだろう。あとでちゃんとフォローしておかないと。
「行きましょう。新田君」
千草さんが僕の腕を引っ張り歩き出した。出口に辿り着くまでずっと腕を組んだままの状態だった。普段なら失神するぐらい嬉しいことなのだが、この時ばかりはどうにも複雑な心境だった。ま、千草さんの好感度が上がっていたから良しとするか。但しこの後、イルシー先生のいる保健室で確認してみると、美緒の好感度はさがっていた。
現在の好感度
カノン:4
イルシー:3.5
夏子:3.5
顕子:3.5
悟:3
秋穂:3
紗枝:2.5
美緒:2
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