修羅場な文化祭~二日目~
場面が切り替わり、文化祭二日目。文化祭の時は週単位ではなく、日にち単位で時間が経過するらしい。
時計を確認みると午後になっていた。午前中は展示の当番でもしていたのだろう。これといったイベントがなかったから、きっとカットされたに違いない。
とにかく、午後の活動については慎重に考えなければならない。初日のような修羅場はこりごりだ。今度こそカノンを誘って、好感度をあげておかなければ。
「おっす!俊助。何だい何だい、せっかくの文化祭なのにお一人様って寂しい男だねぇ」
カノンの姿を捜そうとした矢先、現れたのは夏姉だ。く、くそぉ、強制登場、またこのパターンか……。
やはりここは夏姉のイベントを回避して、カノンを捜すべきなのだろうか?しかし、夏姉が去った後に、カノンを捜すことができるとは限りらないのだ。いきなり次の日なんてこともあり得る。ここはこの機会を利用すべきじゃないだろうか。
「どうかね?ここはお姉さんと一緒に見て回らないかい?」
ウインクをして誘ってくる夏姉。う、うう。夏姉ってやっぱり美人だよな。こうして誘われると、夏姉のことが本気で好きだった頃のことを思い出すじゃないか。
「うん?まさか、誰かと約束でもしているのかい?」
ちょっと寂しそうな夏姉。そんな顔をされると断れないじゃないか……。
「ううん。そんなことないよ」
大丈夫、大丈夫だ。これもジェラシーボムを発生させないためだ。自分にそう言い聞かせ、僕は夏姉の後についていった。
夏姉とのイベントは、屋台めぐりだった。中庭から校庭にかけてのエリアに二十あまりの屋台が軒を連ねていた。たこ焼き、焼きそばなどのお手軽なものが多かったが、湯豆腐、水飴といった奇を衒ったものもあり、見ているだけでも充分に楽しかった。
「うひょぉぉ。いろんな屋台があるねぇ。何から食べようか?」
そう言えば夏姉はカノンに負けないぐらいの健啖家であった。カノンもそうだけど、大食いの割りにスタイルいいんだよな。どうやって維持しているんだか。
「ねぇねぇ、俊助は何が食べたいんだい?」
夏姉が人懐っこい笑顔で訊いてきた。これがここでの選択肢というわけか。夏姉の好感度はすでに高い。ここは好感度をあげることよりも、さげないことに注意した方がいいだろう。だとすれば、無難な選択をするのが一番だ。
「やっぱり、ここは屋台の定番たこ焼きかな」
たこ焼きといえば、夏休み終わりの縁日で秋穂に丸々一個口の中に入れられて往生した記憶があるが、基本的には好きなメニューである。というよりも、たこ焼きが嫌いな人っているのだろうかと思ってしまう。あ、レリーラが蛸が苦手だったけ……。
「そうだね。やっぱりこういう屋台といえばたこ焼きでしょう」
うんうん、と同意した夏姉。好感度があがった様子もなければ、さがった様子もない。どうやらベストな選択をしたらしい。
僕達は近くにあったたこ焼きの屋台に向かった。『ドでかたこ焼きたこちゃん!』とペンキで殴り書きした文字と、いやに上手いたこ焼きの絵が看板になっていた。
「ひと舟ください」
僕が屋台の前で勧誘していた女子生徒に声をかけた。その子は嬉しそうに破顔すると、屋台の中に向かって、たこ焼き一丁!と叫んだ。
「たこ焼き一丁って……。ラーメン屋じゃないんだから」
と苦笑する夏姉が財布を取り出した。いけない。ここは男としてお代は僕が出すべきだ。
「夏姉。ここは僕がおごるよ」
「何を言っているんだい。こういう時は年長者が出すもんだよ」
ちょっとだけムッとした感じの夏姉。しまった。これは好感度をさげてしまったか?僕はすぐに軌道修正をする。
「じゃあ、素直におごられようかな」
「うんうん。弟分は素直が一番」
僕の頭を思いっきり撫でてくる夏姉。そういえば昔はこうして頭をよく撫でられたものだ。流石に高校生になった今となっては少し恥ずかしかったが、反面嬉しくもあった。
「たこ焼き、お待たせしました」
屋台の中からエプロン姿の女子生徒がたこ焼きを持って出てきた。あれ?この子は……。
「紗枝ちゃん……」
頭に三角巾を巻いていたのですぐには気がつかなかったが、たこ焼きを持ってきてくれたのは紗枝ちゃんであった。
「先輩……。それに夏子先輩も」
「そうか。ここは紗枝ちゃんのクラスだったんだ」
お代を勧誘していた女の子に支払い、紗枝ちゃんからたこ焼きを受け取る夏姉。そんな夏姉をじっと見つめている紗枝ちゃん。う、うん。現実世界なら問題ないけど、二人とも攻略対象になっているゲームの世界ではちょっとまずい展開かな?
「仲がいいんですね。羨ましいなぁ」
紗枝ちゃんがらしくな棘のある呟きをした。
「そりゃ仲いいよ。俊助との付き合いは長いからね」
夏姉の言い方にも多少棘があった。現実世界じゃないからかもしれないが、今日の二人は妙に刺々しい。いつもの二人は姉妹のように仲がいいのに……。
「そうですよね。私なんか、中学校の頃からですもん」
拗ねたように口を尖らせる紗枝ちゃん。ああ、まずい。このままじゃ、紗枝ちゃんの好感度がさがってしまう……。
「そうだそうだ。折角だから熱いうちに食べないとね。はい、俊助。あ~ん」
たこ焼きのことをすっかり忘れていた僕に、たこ焼きを食べさせようとする夏姉。咄嗟に秋穂に一個丸々食べさせられたことを思い出し、僕は思わず身を引いてしまった。
「じ、自分で食べるよ」
「何だい?私からたこ焼きは食べられないって言うのかい?」
今度こそ明らかに気分を害した様子の夏姉。好感度が半分さがった。な、何で?それほどまずいことしたか、僕。
「いや、そういうわけじゃなくて……。この前、秋穂と夏祭りの屋台に行って、たこ焼きを一個丸々食べさせられて、口の中を火傷したんだ。それを思い出して……」
「はん。秋穂ちゃんのあ~んはよくて、私のあ~んは駄目なんだ。そっかそっか……」
「ち、違うよ。そういうわけじゃ……」
しまった!これは明らかにまずい!
「いいよいいよ。私がひとりで全部食べちゃうもん」
ひょいひょいとたこ焼きを口の中に放り込む夏姉。あ、熱くないんですか?
「じゃあね、俊助」
夏姉が残ったたこ焼きを手にしたまま、どこぞへと去っていった。あ、あれ?これでイベント終了?気がつけば紗枝ちゃんもいなくなっているし……。
「しまった……。この僕としたことが、こうも失敗するとは……」
この一連の文化祭イベント、失敗の連続だった。まぁ、好感度は一部さがってしまったが、ジェラシーボムが発生しなかっただけでもよしとしなければなるまい。
などと余裕をかましていたのだが、場面が切り替わって保健室で全員の好感度を確認してみると、血の気が引いた。カ、カノンにジェラシーボムが発生してたのだ。
現在の好感度
カノン:4(ジェラシーボム発生中)
イルシー:3.5
顕子:3.5
夏子:3
悟:3
秋穂:3
紗枝:2.5
美緒:2
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