輝く光~後編~
【七属性のうち、最高の属性、光。カノンは、光の魔法を体得した】
エンターキーを押す。すると、カノンの右腕に宿っていた炎が消えた。その代わりに、カノンの拳が白く輝き始めた。
「な、何よ、これ?」
「カノン。それは最高属性の魔法『光』だ。あらゆる属性の魔法よりも速く、破壊力を持つ。最強の力だ」
「最強の、力……」
カノンがしげしげと光り輝く自分の拳を見つめた。
「で、でも。光の魔法なんて聞いたことない……」
「それはお前だけが体得した新しい力だ。考えるな。感じるままに力を解放しろ、カノン!」
「感じるままに……。分かったわ」
毅然としてデスターク・エビルフェイズへと向き直るカノン。拳から発せられる光が、彼女の精悍な表情を浮かび上がらせる。
「光の魔法だと?ふざけるなよ!その程度の魔法、余の永遠の闇でかき消してくれる!」
「闇なんて、この光で切り裂いてあげるわ!喰らえ!ライトニング・ボ……」
わーわーわーわー!あいつ、なんてことを口走るんだ!十二星座のひとりになったつもりか。確かにかっこいい技だが、そのまんま技名を使うな。
僕の心配などまるで気がついていないカノンが、光った拳を突き出す。一見、カノンは一回しか拳を突き出していないように見えるが、そうではない。カノンは、目にも留まらぬ速さで数十回、いや数百回拳を突き出しているのだ。尤も、僕自身もカノンの拳の動きが見えているわけではない。そんな気がするだけだ。
そしてカノンの拳からは、拳大の光の球体が無数に発せられる。弾丸のようにまっすぐデスターク・エビルフェイズへと飛んでいく。
デスターク・エビルフェイズも、何か魔法を出そうと両手を挙げていた。が、次の動作に移る前に、カノンが放ったライトニング……じゃなかった、光の球体は、デスターク・エビルフェイズの体に到達していた。
腹、腕、太腿、胸。デスターク・エビルフェイズの体の至る所に、光の球体は抉りこんでいった。
「ぶがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
デスターク・エビルフェイズが断末魔の叫びをあげた。しかし、すぐに聞こえなくなった。デスターク・エビルフェイズの体は、光の球体を全身に喰らった勢いそのままにぶっ飛び、挙句にはコンクリートの壁をぶち破り、遥か夜空の彼方に消えていったのだ。これで勝ったと思うなよ、という悲しくなるぐらいお約束な台詞が聞こえた気もしたが、気にしないでおこう。
「か、勝ったの?」
勝利の実感が湧き上がってこないのか、呆然とした面持ちで己の拳を見つめるカノン。
「完全に倒したってわけではないが、まぁ勝ちは勝ちだろう」
「そうよね。勝ったのよね。勝った!勝った!」
カノンが飛び跳ねながら抱きついてきた。
「勝った!勝った!『白き魔法の杖』なんてなくてもデスターク・エビルフェイズに勝てたわ!やった!」
「わ、分かった!分かった……」
カノンがぎゅっと力強く抱きついてくる。く、苦しい。ギブ、ギブアップ!
僕が必死になってタップしているのに気がついたのか、カノンがようやく解放してくれた。
「あ、ありがとうね、シュンスケ。止めを刺すことはできなかったけど、これならまた奴が出てきても勝てるわ」
「そいつはよかった……」
本当に嬉しそうに笑うカノン。こいつ、時々こういう可愛い表情を見せるんだな。
「そ、それよりも千草さんだ。カノン、まだ魔法は使えるだろ?」
「う、うん。光ね」
カノンが光の球体を掌に出現させた。炎よりも力強い一面を照らす。
「ねぇ、あそこじゃない?」
「あ?千草さん」
カノンが指差す先に、壁にもたれかかるように座っている千草さんの姿があった。駆け寄り、改めて千草さんの様子を見てみると、目を閉じたまま項垂れていた。
「千草さん!」
まさかあのおとぼけ魔王が人の命を奪うとは思えなかったが、呼びかけても反応しないので流石に心配になった。
「気を失っているみたいね」
しゃがんだカノンが、千草さんの首筋に指を当てた。どうやら脈はあるらしい。
「そうか……。じゃあ、あのふざけた一部始終も見られなかったわけか、よかった」
「ふざけた一部始終って何よ?失礼ね」
「お前のことじゃない、あの魔王のことだ。千草さんは、あいつが触手を伸ばすところを見てしまったからな」
「大丈夫よ。目が覚めたら、夢か錯覚ぐらいにしか思わないわよ」
そんなものか……。まぁ、そうであることを祈ろう。
「兎に角、ここを出よう。カノン、また頼めるか?」
「う、うん。別にいいけど……」
言いよどむカノン。あ、そうか。今度は千草さんもいるのか。
「流石に一度に三人は無理か。カノン、先に千草さんを下に下ろしてくれるか?」
「ふぇ?あ、うん」
カノンは、千草さんをお姫様抱っこして、光の羽を使って地上へと下りていった。しばらくしてカノンが帰ってくる。
「さぁ……、行くわよ」
「お、おう」
再び正面から抱きついてくるカノン。う、うう。緊張するな。
「ほ、ほら!あんたも手を回しなさいよ」
「ああ……」
僕はカノンの腰に手を回す。さっきもやったのに、やっぱり緊張してしまう。
華奢な体躯に、柔らかい触感。い、いかん。ついつい女の子だと意識してしまう。
「早くしろ」
「分かっているわよ」
ふわっと宙に浮く。そのまま建物の外に出て、地上へと降下していく。
今度こそ夜の空を遊覧気分を味わいたかったが、上昇する時よりも降下する時の方が恐ろしく、まともに周りの風景を見る余裕などなかった。
「へぇ、この街って夜になると綺麗ね」
カノンは、見る余裕があるらしい。本当に羨ましい性格だ。
「そ、そうか……」
「シュンスケは、見慣れているからあんまり感じないかもしれないけど、本当に綺麗よ」
「そりゃよかった……」
「異世界なんか来てどうなるかと思ったけど、なんとかやっていけそうな気がする。これもシュンスケのおかげよ」
「……珍しいな。お前がそんなしおらしいことを言うなんて」
「ば、馬鹿!お礼を言っているだけじゃない!私だって、世話になったらちゃんとお礼ぐらい言うわよ」
「分かったよ。素直に受けよるよ、お礼の言葉」
カノンが何か言いたげに口を開きかけたが、その前に二人の足が地についた。
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