クラスチェンジ!

 「あら?カノンじゃない」


 カノンの登場にさして驚く様子もなく、サリィは余裕の笑みを浮かべた。


 「サリィ。ここであったが百年目よ。勝負なさい!」


 左手を腰に、右手でサリィを指差すカノン。その芝居がかった仕草に、歓声とフラッシュの嵐が起こった。


 「おお!レイヤー同士の寸劇だ」


 「あれって、『キュアキュアバスター』のレイン決め台詞だよな?」


 「も、萌えぇぇぇぇぇ」


 口々に独り言を言いながら、シャッターを切りまくるカメラ小僧達。気持ちは分かるが、頼むからやめてくれ。


 「な、何よ?これ……」


 フラッシュに目を細めながら戸惑うカノン。だからやめろと言ったのに……。


 「ふふん。その貧相な体じゃ、撮られるのも嫌よね。いいわよ、尻尾を巻いて逃げても」


 わざとらしく胸をそらし、その豊満さをアピールするサリィ。さらにフラッシュが激しくなる。


 「ぐぬぬぬぬ!」


 怒りに震えるカノン。その様子もカメラ小僧達には受けているようで、シャッター音が鳴り止まない。


 「シュンスケ!シュンスケ!」


 カノンがこっちに戻ってきた。来るな来るな、関係者と思われたくない。


 「さっきの店でマリアさんの衣装買ってきて、すぐに」


 「待て待て待て!なんでそうなる!」


 「サリィに対抗するにはそれしかないでしょう!」


 とか言いつつ、本当は欲しいだけなんじゃないだろうか。正直なところ、僕の財布の中には、コスプレ衣装を変えるほどの現金は入っていないぞ。


 「何しているのよ?あら、あんたは……」


 サリィがゆったりとした動作でカノンを追ってきた。うわぁ、見つかってしまった。


 「物好きね。そんなに私に罵られて虐げられたいの?いいわよいいわよ」


 存分に虐めてあげる、と接近してくるサリィ。


 周りから見れば新たな登場人物の出現と思われたのだろう。やんややんやと歓声が一層大きくなる。挙句には、羨ましいぞ、と声をかけられる始末。羨ましいと思うのなら代わってくれ。


 「カノン。もう何でもいい。とにかくあいつをとっちめろ!」


 「嫌よ。私、マリアさんの衣装じゃないと戦いたくない」


 ぷいっと拗ねるカノン。こいつ、本当にただ欲しいだけじゃないのか。しかも、戦いを拒否するなんて卑怯だぞ。


 「あら、仲間割れ?いいわねぇ」


 と僕を後から抱きすくめるサリィ。ほわぁぁぁ、胸が胸が……。でも、ドSのサリィにこんなことされても嬉しくないぞ。ええ、ちっとも嬉しく……。


 「う、羨ましいぞ」


 「リア充め、オタクの敵!」


 「カメラって意外と硬いんだよね。殴られると痛いだろうな……」


 カメラ小僧達もヒートアップしていく。中には物騒なことを口にする輩もいる。こいつら、うちのクラスの奴らとそっくりだな。


 「ちょ、何しているのよ。シュンスケから離れなさいよ」


 「別にいいじゃない。あんた、彼のために戦わないんでしょう?だったら、ここで彼と私が何をしようと構わないじゃない」


 ねぇそうでしょう、とサリィの右手が服の中に侵入してきた。いやん、そこは……。


 「ああ、駄目ぇ。乳首は……」


 「うふふ。敏感さんね。これは虐めがいがあるわぁ」


 「た、頼む!カノン、助けてくれ!このままじゃ、普通の人間として生きていけなくなる気がする」


 苦虫を噛み潰したような顔をするカノン。助けたいのは山々だが、このまま素直に助けていいものかどうか迷っているという感じだ。そこまでマリアさんの衣装が欲しいのか。


 「分かった分かった!望みどおりにしてやる。その代わりどうなっても知らんぞ」


 僕はサリィの拘束を振り解いた。少し距離を取り、モキボを出現させる。


 マリアさんの姿を思い描きつつ、キーボードを叩く。


 【カノンがクラスチェンジをした。パワーアップし、魔法戦士となった】


 僕は迷うことなくエンターキーを押した。するとカノンの周囲は光に包まれた……。

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