光を嫌う
渋沢慶太
第1話
真夜中の球場は誰も居ない。
僕を含めなければ、だが。
僕はライトとレフトの外野指定席の間で立っていた。
すると、もう1人の僕がバッターボックスに立つ。
僕は声も出せない内に客席は埋まって、騒音が響き合う中、ピッチャーが投げる。
もう1人の僕はピッチャーが投げたボールをバットで振る。
バットに当たったボールは高く打ち上がる。
ボールが下がってきて、僕は咄嗟にキャッチした。
観客は大いに盛り上がっている。
得点板を見ると逆転ホームランだった。
「なあ、見ていたか?」
騒音が消え、1人の男の声がした。
もう1人の僕だ。
「見ていたさ。勝てて良かったな」
「ボールが僕に近づく。ピッチャーがどうやって投げようとしても、僕は打てるんだよ」
「願えばなんでも出来るって、そんなに僕は有能だったか?」
「お前もあの時までは有能だったんだよ」
「あの時ってなんだよ?僕には野球のセンスなんて無かった」
「センスなんてなくたって、あのまま練習していればプロ野球選手にもなれたのに」
「ただの結果論だ」
「確かに結果論だ。でも、僕は考えた事が現実になる。今回の試合も逆転ホームランで勝つと考えた。だから、現実になった」
「なんでもかんでも現実になるなんて、楽しいのか?」
「楽しいよ。でも、プロ野球選手は飽きたな」
「次は何をする気だ」
「特等席で世界の終わりが見たい」
「それをしたら、お前は次に何を考えるんだ」
「もう1度、世界を作ろっかな。今度はよりよい世界を作るべきだ」
「お前は破壊神でもあり、創造神でもあるんだな」
「今の世界は苦痛だ」
「確かにそれは否定しない。フリーターである僕はとてもそう思う」
「生まれた時から、幸せは決められているんだ」
「俺の生まれた場所は田舎で親は共働きで1人っ子の僕は、人生の全部が苦痛だった」
「僕はどんな政治家よりもいい世の中を作れる」
「じゃあ、実現してみろよ」
「任せとけ」
僕は気がつくとロケットの中にいる。
窓からはさっきの球場にいた観客達が非常口に多く集まっている。
地球が丸みを帯びていることを肉眼で確認すると、地球全体が灰色の雲に覆われた。
「灰色の雲はなんだ?」
「核ミサイルだよ。残り数秒で地球に生き物は消える」
1つの惑星は静かになった。
「じゃあ、今から生命を作る。この生命には善人の性格を入れた」
「平和で苦しまない惑星ができるな」
「もう、この惑星には用は無い」
「これからはどうするだ?」
「惑星の位置を変える。太陽が全体的に当たるように配置する」
「太陽を複製しないのか?」
「光は1つでいいんだよ」
光は世の中を照らした。
騒音が聞こえない。
暗闇が僕には居心地がいいみたいだ。
だから、僕は光を求めなかった。
あの時から。
だから、僕は無能だった。
光を嫌う 渋沢慶太 @syu-ri-
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