第193話「混濁と」
「アマテラスは純潔な女性でなくてはなれない存在です。自身が資格を失っていることを知ったあかり様は、次の作戦に出ました。それは死屍子を先に見つけ出して封じてしまうこと」
上から見ていたことだろう。その時はもう人外が産まれていた頃だ。死屍子によって現世にまで影響が及んでいるはずの時期。
「祠を捜して動き始めていた天明家の動きに乗じて、死屍子そのものに近づく方法を模索していたようです」
「でも、まだ現世にはいないんですよね?」
「ですからあのお方は旧知の仲であり、根の国に出入りのできる人物を頼ったのでしょう」
「それが……安倍晴明さん」
「はい」
あの広間からどれだけ離れただろうか、随分と歩いた気もする。屋敷の裏手らしい縁側を二人で歩いていく。どこまでも青が天井を埋めていた。紫陽花に雪が積もっているし、紅葉の枝先には梅が綻んでいる。まったくおかしな空間だ。
「あなた様も幼い頃にはお会いしておりましたが。覚えていらっしゃらないでしょう、あちらのご子息と遊んだことも」
「そうですね、何も」
「まあ、それはさておき。結局根の国へはスサノオ様の許可が下りず入れなかったのですが、お二人はそれ以降も交流を続けたようですね。現状を鑑みるに」
「ん……? 何だか曖昧ですね」
「急に現世から次元をずらして身を隠すようになってしまわれたので、後が追えなかったのですよ。確か──八年ほど前から」
兄と自分を置いて消えてしまった時期、そしてハルを拾った時期と重なる。イシコリドメはひかりの複雑な気持ちに気づいているのか、横目にこちらを見やった。
「我々は気づけませんでした、あの小さな妖怪の娘が死屍子だったと。いえ……あかり様としても予想外であり、盲点だった」
「神様の記憶があっても、見えないものが?」
「むしろ知っていたせいで異常事態が分からなかったのです。これまでただの一度も、死屍子が七つにならぬ子に憑いたことがなかったので」
「……やっぱり」
元は人間であった、小さな子。ハルの正体。
「死屍子は──」
一瞬言葉に詰まる。しかしすぐに疑問は口を突いて飛び出した。
「どうしてそんな行動に」
「光と陰は表裏一体です。ともり様が記憶を跳ね返したせいでアマテラスの神格が揺らぎ、裏である側の自我も緩んだのでしょう」
人と妖怪が混ざり合って、本人にさえ自身が見えなくなってしまった陰だ。どうやって助けようと、そればかりで頭がいっぱいになった。
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