第164話「憑きもの」
木の床が軋む音が近づいてくる。子狸達は何匹か見つかったらしく、わあわあと千愛らしい足音の周りではしゃいでいた。
「姫様はさすがだなぁ。おいら、すぐ見つかっちまっただよ」
「ばばあの底力、舐めるでないわ」
独特なほろほろという笑い声をあげながら、ひかりのすぐそばまで迫っている。息を潜めている隣で一匹がくしゃみをした。
「
「へへ、すまねえだ姫様」
その名と訛りには聞き覚えがある。ひかりを社地の屋敷へ連れていった子狸だ。表へ出ていきたい気持ちを堪え、ジッとしていた。千愛はふむと声をあげる。
「お前さんはなかなか上手い」
スパンと押し入れを開け放たれ、布団を持ち上げられる。間に潜んでいたひかりは苦笑いして抜け出した。
「兄と遊ぶ時は大抵、この中だったので。すみません、外を出歩いた格好で布団に潜るなんて」
「気にせんでよい。子狸らを見よ、常にこれで泥の中を遊び回り、そのまま眠る」
確かに狸は服など着ないだろうが。しゃがみ込んで子狸の一匹を撫でた時、大が上を指した。
「布団が!」
バランスを崩した布団の塊が降ってくる。見開かれた視界に影がかかった瞬間、黒いものが間に割って入り、布団を跳ね飛ばした。千愛があっと声をあげ、黒いものを両手で捕まえる。
「勝手に出てきよって。大体われの結界からどうやって抜け出したんじゃ」
千愛が玉の中に押し込もうとするそれは隙を突いてひかりの背後へ隠れ、フッと姿を消した。ゆるゆると頭を振った千愛は玉をしまう。
「天明の子は面倒な憑きものにやられてしもうたのう」
「さっきのは何なんでしょうか……?」
「話は先ほどの広間で、お前さんの仲間達とともにしようぞ。ちょうどお前さんが最後であるしなぁ」
ひかりは千愛の後に続いて広間へ戻る。いつの間にやら円形のテーブルが出され、茶と菓子の用意がされていた。
「うっまー、久しぶりのポテチサイコー」
「貴方は序盤に見つかったノデ、誰よりも堪能できたでショウ?」
「うっさい」
随分と人間じみたものだと思いつつ、椅子を引いた。全員が揃い、千愛が口を開く。
「天明の子も気になっておろうから、先に話してしまうとしよう。あの黒いのはお前さんらの捜しておる妖怪娘じゃ、名をハルと言ったかな?」
ひかりは目を丸くし、三人は首を傾げた。
「なんであんな姿に」
「落ち着きなさい。千愛様の前で見苦しい」
玉菜前が窘めるのを軽く笑い飛ばし、千愛はゆっくり茶を啜る。
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