第122話「理科的」

 そこは猛火に包まれたとある神社の境内だった。ひかりの身体が傾いたと思えば、ふわりと光を帯びる。キッと目つきの鋭くなったのを確認して、ハルが声をかけた。

「状況を教えてくれないか。そもそもここはどこなんだ」

「古来より我が国の都として栄えた街、旧都です。昨晩から突然始まった妖怪の襲来により、火の海となりました」

「人の姿がないよ、皆はどうしちゃったのさ?」

「神職達に急遽、イシコリドメとオモイカネから神託を授けました。彼らの知恵には敬服します」

 火をまとって倒れてきた柱を粉砕し、話の続きを促す。アマテラスは四人へ走るように指示をして、大通りへ出た。

「旧都には巨大な空洞が地下に存在するようなのです。そこはわたしが岩戸隠れをした場所という伝承がありまして、皆その中に」

「それってマジ!? 特異点の一つで調査を申し出たんだけど、神主に神聖だからダメだって言われちゃったんだよねー。ウチも入りたい!」

「勝手になさい」

「やったー!」

 ハルがはしゃぐマチネの首を捕まえ、半ば強引に走らせる。燃え盛る家や寺社の至るところから妖怪の気配がしたのだ。早く通りを抜けなければ、彼らの的にされかねない。

「道が塞がってますね……仕方ありません、遠回りを」

「いや、押し通るぞ」

 火の回った瓦礫に躊躇なく手を差し入れ、道の脇へ投げ捨てる。マチネがギョッとしつつ冷気を操り、火を消してからハルの両手を冷ました。

「君、ばっかじゃないの!?」

「この方が早い。ほら通れるぞ、早く行かなきゃ焼け死ぬぞ」

「んもう、ウチがどうにかするから引っ込んでて!」

 マチネが両手を空に突き出し、うんうんと唸り出す。すると次第に周囲の温度が下がり始め、火の勢いが弱められる。どんどんと冷えてきて身震いをしたアマテラスに、ハルがパーカーを放った。

「何する気なんだ」

「ええい……熱なんてこうしてやるーッ」

 頭上の何かを投げ飛ばす仕草とともに、空中を球状の陽炎が滑っていく。おそらくは圧縮した熱気なのだろう。空高く昇っていったのが見えなくなり、空には淀んだ雲が広がるばかりだ。

「今は梅雨、水を含んだ雲にさらに多くの水蒸気の塊をぶつけてやれば」

 ぽつぽつと肌に雫が跳ねる。何だと思う間にそれは雨となり、旧都全体に降り注いだ。

「即席雨雲のできあがり! これで火も消えるんじゃないかなー」

「マチネすっげえ!」

「んふふ、でしょでしょー」

 雨に打たれながら、ハルは今さらマチネの能力の汎用性に唖然としていた。

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