第88話「本心を暴く」

「本人が起きてる時に言えよ、意気地なし」

「黙りなさいっ、神が軽々しく妖怪に感謝なんて言えません!」

「いやいや、流石にかわいそうでしょ。お前って他人の気持ち汲み取るとかできないわけ? カミサマとしてどーなのさそれ」

 アマテラスがふるふると震え出し、ついに怒りを爆発させた。

「わたしだって怒りたいわけじゃないんです! 他の神々が妖怪に対する情けを許さないので、わたしはそれに倣って……!」

「ねえ、高天原ってアマテラスが一番偉いんだよね。だったらお前が改革しちゃえば? 下界だって今どきそんな圧政しないよ、カミサマんとこって時代遅れだね」

「くっ……」

 恐れを知らない子供らしさで好き勝手にアマテラスを丸め込み、ふふんと鼻を鳴らす。悔しげに強く握られた指先をハルがピクリとさせた。マチネが笑って頭を撫でる。

「赤ちゃんみたいだねー、かわいい」

「……そう、ですね」

「妖怪として力を持ちそれを振るっているのは確かにそうデスが、やはり本来は少女なんでショウね。フフ……愛らしいデス、食べてしまいたいほどネ」

 顔をしかめたアマテラスに完璧なウインクを見せ、ハルの鼻先をちょんとつつく。そしてにこやかに一つ提案をした。

「本人にはまだ言えないナラバ、今のうちに練習しておきマセンか。先ほどのたった一言ではなく、思うところを全てを」

「お断りします。もし起きていたら……」

「大丈夫デスよ、これはワタシの術で眠らせたものなので解くまではネ」

「それいーじゃん! ほら早く、やってやって」

「と言われても、何を話せば……うーん」

 ジャスとマチネが静かに見守る中、翠はハルの顔の前で手を振ったり鼻をつまんだりしている。それを窘めてから、アマテラスが慎重に話し出した。

「今まで他の神々から、妖怪と親しくするなと言われ従ってきました。それがあなたを苦しめていたのならば、その……申し訳ないと思っています。ハルのことを大切に思っていないわけでは、ないので。……仲間として頼りにしているので、呆れたでしょうが、わたしと戦ってほしいのです」

「ハイ、よく言えマシタ」

「なんだ、やればできるじゃんか」

 ジャスや翠が口々に言い、いやに意地の悪い笑みを浮かべている。ふと掴んでいたハルの指先が細かく震えているのに気づいて下を見ると、なんとも気恥ずかしそうな顔つきで目を閉じていた。

「起きてるじゃないですか!」

「んッ、ふ……ははは、ごめんなアマテラス様。フッと意識を引き戻されたと思ったら、気になる言葉が出かかってたから」

「鼻先をつついた時カラ、ハルは起きてたんデスよ。翠がちょっかいをかけるノデ気づかれないか、ヒヤヒヤしましたネ」

 ハルが身体を起こしてアマテラスの両手を取り、真っ直ぐな眼差しを向けた。

「私こそ、よろしく」

「この、無礼者達がッ!」

 空洞となった幹の中に四人の悲鳴が響いた。

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