第48話「教授」
『この部屋は乱雑に物が置かれているように見えて、その隙間へカメラとマイクが設置してある。死角が全くないようにね。少しでも怪しい動きがあれば、大学の方で妖怪は始末することになっているから、あまり余計なことは言わない方がいい』
「それは恐ろしいな。せっかく友好的に協力してるのに脅しか」
マチネに加えて誠とも対峙することになり、ハルはやれやれとため息をついた。アマテラスに顔を出すつもりはないらしい。モザイクの向こうで何やら動いている誠は、紙の擦れる音を立てながらフッと笑った。
『今しがた、ハル君から採取したデータの分析結果が届いたんだが……なかなか興味深いね。身体能力──特に耐久値・機敏性は輝くものがあるのに、考える力が圧倒的に欠けている。今まで本能でなんとなく、戦闘をしてきただろう?』
「まあ、そうだな」
『何かのリーダーとして指示を飛ばすのにも向いていないようだ』
「私の仕事はアマテラス様やひかりの邪魔だと思う奴らを殺すだけだからな、その力は必要ないよ」
誠はふむ、と小さく声を出しただけで、黙ってしまった。ハルのデータをひたすら眺め続けているらしい。全身を見られているような感覚に、ハルはこそばゆくなった。
『もう少し自身を制御し、他人を支配することだね』
「はいはい。肝に銘じておくよ」
「誠センセー、他に試したい実験はありますー?」
『そうだな……。その前にハル君の実地戦闘について詳しく聞こうか。アマテラス様と天明一族の女の子に出会った後、どんな敵と戦いどのように勝利してきたのか……教えてほしい』
「要点をまとめて話すのは苦手だが……頑張ろう」
リリィのリムジンを襲った羅刹魔のことや精神世界でのバクとの対峙など、出会った頃から順番に話をしていった。天明都を目指した辺りで、深刻な表情になる。
「シロウサギ──。私が人間に捕まって牢屋に入れられる原因にもなった奴だ、あいつは面倒な気がする。これからもまた現れるはずだ」
『外国の妖怪で白いウサギと言えば、あの物語が人々の思想によって具現化された彼のことが思い浮かぶが……シロウサギ君は『アリス』を捜していなかったかな』
「なんで知ってるんだ」
「センセー、ウチらはそんな妖怪知らないですよ。秘密にしてたんですかー?」
『ずっと昔にね、海外を旅してた時にたまたま会っただけだから報告はしていなかったんだ。まさかこの国に来ていたなんて、僕も驚いている。そうか……大きくなったんだなぁ』
「何やら思い入れがあるみたいだが、私のご主人様が傷つけられるようなら即殺すぞ。容赦はしない」
『構わないよ』
誠は平静を保ったつもりだろうが、やや声色が固くなったのをハルは聞き逃さなかった。それはマイクとスピーカーの不具合ということにして無視する。
『そうだ、マチネ君。天明伝絵巻物の原本のコピーはもう採ってあるね』
「はい! 今から送りますね」
いつの間にリュックの中身を漁っていたのか、マチネの手には巻物が紐を解かれて広げられていた。
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