第47話「第三の種族」

 ホワイトボードをひっくり返すと黒板が現れ、そこにも文字の羅列が所狭しと並べられていた。それを全て消してしまい、マチネがわざとらしく咳払いをしてみせる。

「ではハル君。講義を始める前に質問だが、ヒトと妖怪の違いはなんだね」

「誰の口調だ。……えっと、人間は特筆した能力がないけど、妖怪にはあること?」

「うんうん、そうだねー。でもそれは今までの定義であって、現在ではやや状況が変わってきてるんだよ。ヒトと妖怪、それに加えて何が増えたか、聞いたことない?」

「んー」

 ハルは首を傾げた。マチネが黒板へ三つの丸を描き、その中へそれぞれヒト、妖怪と書き込んでいく。

「約二十年前から現れ出した新たなヒト、それが『人外』なんだ。ヒトでありながら妖怪のような能力を持った人達のことだよー」

「──あぁ、そういえば」

 ジャスがいつだったか話していた気がする。人外は特異点近くで生まれ育った子供の何人かがなるのだと説明し、マチネはむんと胸を張った。

「ウチもその一人でねー、熱気と冷気を操れるんだよ。ドライフラワーが一瞬で作れるんだからねー」

「すごいな」

「へへん、そうでしょ? 話の続きだけど、人外が現れるのには周期があってね、約七年ごとというのが分かってるよー。第一世代が二十一歳から二十三歳、第二世代が十四歳から十六歳、第三世代が七歳から九歳なんだ」

「マチネ、質問いいか」

「教授と呼びたまえハル君。はい、やり直しー」

「……マチネ教授、人外って言葉の響きにどこか差別的なものを感じるんだが……どうだろう。人外の現状を教えてくれ」

 不意に表情を暗くした彼女の様子に、詫びを入れようと口を開いたのをマチネが止めた。そして深く頷き話し出す。

「そうだね。普通の人達は最初、ウチらのことを妖怪が化けてるんだって言ったよ。特に第一世代は数が少なくて、特異点の方もまだちゃんと見つかってなかったし。……ウチはね、そんな人達に突き飛ばされて車に轢かれたらしくて、その前の記憶がないんだ。名前も分からなかったウチに、センセーが神田ヶ峰マチネってつけてくれたのー」

「へえ。いい人なんだな」

「そりゃあねー! ウチのこと本当の娘みたいに大切にしてくれるの。どこか具合は悪くないのか、能力を使い過ぎたりしてないかーって」

「そんなに大事な娘を凶暴な妖怪と二人きりにするなんて、気の抜けた父さんだな。隙を見て喰っちまうかもよ?」

「センセーはいつもいるよー」

『その通り。マチネは僕の大切な子だからね』

「うわッ!?」

 突然声がして素早く飛びのき、ドアへ背をつける。部屋を見渡すと笑い声とともに、マチネが持ってきたパソコンで人影が揺れた。

『画面越しだが初めまして。僕が仁科誠、今回は協力ありがとうハル君』

「ようやくお出ましか。待ちくたびれたよ」

 やはりモザイク処理のされた画面を見つめながら、ハルはにやりとした。

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