第43話「不思議な交流」
「どこに消えた!? あの一瞬で動けるはずがないし、何かした動きもなかった」
『気配がいきなり途切れ、手応えも同時になくなりました。忽然と姿を……』
呆然とする二人は辺りを少し捜したが、シロウサギの姿は見当たらない。匂いも音もしないのだ、逃げた形跡は一切ない。混乱するハルだったが、ハッと背後からの気配に振り向いた。
『あれは……この辺りに暮らす化け狸ですね。まだ子供のようですが』
「あっおい、泥棒!」
三匹の子狸はリュックを引きずってすたこらと逃げ出す。人間の姿になっているハルをまさか妖怪とは思ってなかったのだろう。一匹が自分の尻を突き出して、ぺしぺしと叩いて挑発した。
「こんの……待てッ、化け狸!」
裸足で地面をしっかり踏みしめて走ると一瞬で距離は詰められた。慌てた子狸達はポンッと石や地蔵に姿を変えたがバレバレだ。リュックとともにひょいと子狸を捕まえて、目いっぱいの威嚇をする。
「皮剥いで鍋にして喰うぞ!」
「かんべんしてけろ、ゆるしてけろ!」
「おらたち、姫さまにおみやげあげたかっただけなんだぁ、ゆるしてくれっぺ?」
「姫?」
泣き出してしまった子狸達を見て頭をかいたハルはうーんと唸り、もう一度頭を捻って深く考え込んだ。やがてそうだな、と呟いてそうっと子狸を地面に下ろす。
「この荷物全部はダメだ。でも、少しならいいよ」
「やった!」
『勝手に物をやらないでください』
「へへ、ちょっとだけ」
リュックからいくつか荷物を取り出し、いいものを見繕う。三匹はわくわくとしながらそれを眺め、ハルが地面に敷いたパーカーに並べられる品々を吟味していた。
「ハンカチとかどうかな。まだ使ってないから」
「おら、これがいいだ。姫さまよろこぶど」
「ベルトか? んん……まあいいか、あげる」
「オラはその手巾もらうでな」
「おいらはな、おいらはな……これ!」
最後の一匹が襟シャツを取り上げたのを見て、ハルは苦笑いした。まだ糊のきいている新品を差し出す。
「それはもう使ってるから、こっちにしような」
「やーだぁ、おいらはこれをあげるって決めただよ」
「困ったな……。人が着たものは姫サマ、喜ばないと思うけど」
「姫さまはいっつもな、おらたちのおくりもの、よろこんでくれるだ。ぼうしつきどんぐりとか」
「だからこれもきっとよろこぶだぁよ。いいっぺ?」
「はは、分かったよ。その代わり怒られても私は知らないからな」
子狸達と取り引きをして、ハルは立ち上がった。
「シロウサギはしばらく来ないだろうし、そろそろ行くか」
「いつかあそびにきてけろ!」
ベルトとハンカチと襟シャツを抱えた三匹に見送られて、ハルは再び山を駆け下り始めた。その視界の向こうには徐々に、街並みが見えていた。
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