水面花の空論 第2話
親も姉も毒を飲んで死んだ。思えば、事情を知らなかったのは俺だけだったんだろう。
親戚に引き取られた俺は、警察から事情聴取を受けたり、嗅ぎ付けてきたマスコミのインタビューから逃げたりで、しばらく普通の生活を遅れなかった。
でも、姉がいない時間を無気力に送るよりは良かったのかもしれない。
葬式は宗教に則って行われた。親族や宗教の顔見知りから向けられる同情や、奇妙なものを見る目は、居心地の悪さしかない。
時間だけを過ごしていると、真っ黒な長髪とワンピースの女の子が笑い掛けてきた。黒い瞳に白い円が浮かぶ、不思議な女の子である。姉は可愛らしい系統だったが、この女の子は中性的で綺麗だ。
『そんな顔をしていては、孤立してしまうぞ』
『……こんなやつらにこび売って、意味あるの?』
『あるよ』
そう言われても、心は泣いてくれない。フリなら良いだろうか。
力を振り絞って大粒の涙を流し、顔を真っ赤にして泣きじゃくった。周りは慌てたようにハンカチを取り出し、俺に近寄る。
振り切って顔をぬぐいながら、これに意味があるなんておかしな事を言うと思っていた。やらなきゃいけないは、苦しくて辛いことでしかないのに。
真っ黒な女の子はいつの間にかいなくなっていたが、葬式が終わった後にまた話しかけてきた。
『私は雲村すく』
『……雲村?』
母親が言っていた、麦茶をくれた家の人だ。
だが、そうでなくとも知っていた。政治家の、有名な名字だ。その雲村が一体自分に何の用だろう。
疑問が顔に出ていたのか、雲村すくは小さく笑って言った。
『お前はうそ泣きの才能があるな。泣き屋を紹介してやろうか?』
『なき屋って……姉ちゃんとドラマで見たけど、女の人がなるものでしょ』
そこまで言って、俺は思い付いた。
女の人に、姉になれば、姉は俺の代わりに生きられるのではないか。
そもそも、本当は俺じゃなくて姉が此処にいる筈だった。無事な麦茶と入れ換えたのが、俺ではなく姉のグラスだったら、姉は今も太陽みたいに笑えた。
姉ならどんなに悲しくて泣いたとしても、最後には必ず眩しい笑顔を魅せる。
俺は姉になろう。
そうして、俺は泣き屋を紹介してもらった。
長い髪にお団子を二つ結んで、化粧をする。喪服を着て、姉のように泣き、姉のように笑う。その姿は【絶対】だ。
そのまま俺は泣き屋『
親戚の家を出て、狭萠雨の家に引っ越し、今も姉として生活している。
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