復讐少女《リヴェンジガール》SS
里雨きび@学園バトルもの執筆中
第1話 時間は何よりも残酷で
辺りはじめじめとした空気が漂っており、服に汗がまとわりつき、微風が吹くと、少しだけではあるが心地良さがある。
ふと、空を見上げる。
ぽつん、ぽつん、と。
二粒の小さな雫がどんよりとした雲から落ちてきた。その二粒の雫をきっかけに雨が降り出したのだ。急な雨だったが幸い、未来予知のおかげでで彼女は傘によって濡れずに済んだ。
周りの人々は雨を気にしてか、少しでも濡れまいと早足、急ぎ足になって屋根のある建物に駆け込んだ。
「遅いですね」
そんな中、氷雨は公園の前でただ1人佇む。正確には、公園だった場所と言い換えた方が適当であろうか。
そう、この公園は幼少期から緋那と氷雨にとって再会を約束した最も大事な場所であり、幼少期から今までこの公園を見て育ってきたのだ。
最初にこれの遊具に乗ると決めていた赤と黒を基調としたブランコ。
小学校高学年向きに作られたオレンジ色の飛行機型のジャングルジム。
女の子同士でやると、お互いの体重が露骨に判明し、なんとも言えない空気になった水色を基調としたシーソー。
遊具の中では最も高く、子供達に取っては目玉の遊具となる複数箇所に滑る場所がある滑り台。
その他にも、ロッククライミングを思わせる遊具やタイヤの半分が地面に埋まっていた体幹を鍛えるための遊具や裸足で駆け回れる芝生などーーそれなりに広く、多くの子供達や大人達にまで親しまれた。緋那と氷雨も日が沈むまで時間を忘れて遊び尽くした。
しかし、その公園も取り壊しが決まり、今では見る影もなく、立ち入り禁止と書かれた看板が立っているだけとなっている。
取り壊しの原因は遊具の老朽化。都や国の意向。最近でも、都がダメだと判断した遊具は撤去し、遊具がどんどん少なくなっていったのだが、それでも、彼女達にとっては大事な場所であることには変わりはなかった。今後、公園跡にどのような施設、あるいは土地になるかはまだ未定だそうだ。
取り壊しが決まったと聞いた時は、意外にも取り乱したりはしなかった。むしろ、よくここまで持ってくれたなと思ったくらいだった。
何しろ、あの公園は氷雨の聞いた話では70年以上前からあったというのだ。70年もの間、雨、風、雪、風、寒さや暑さの軋轢に耐え、多くの子供達を巣立たせた公園なのだ。充分すぎるほどその役目を果たしている。
(よく、頑張りましたね。私達の成長を見届けくれて、本当に感謝しています)
見る影もない公園を目の前にして、氷雨は心の中でそっとお礼を言うと、もう一度辺りを見回す。
時間の流れが垣間見れるのは、この公園だけではない。氷雨自身や彼女が住んでいる街でも同じことが言える。
不思議なことに小さい頃は早く大人になりたいという気持ちの方が強かったが、今は大人への階段を上ることに躊躇いを覚える。
高校を卒業したら、大学? それとも就職?
小さい頃には見えなかった世界が徐々に大人に近づくことによって明確に見えるようになっていく。見えたことによって自分の限界や過酷な現実を直視するようになり、小さい頃よりも臆病になった気がするのだ。これも、時間の流れを実感できる一つの要素である。
もう一つは小さい頃から住んでいて、土地勘がある場所ならば、少しの変化でも敏感に目に移ることがある。
小さい頃、買い物に行く時は商店街であったが、現在はスーパーか、コンビニ、駅中にある地下デパートなどで済ませている。そう言った人達が増え、立ち行かなくなった商店街の店は畳まざるを得なくなったり、大企業に吸収合併されるのが今の現実である。
もしかしたら、将来はコンビニやスーパーすらなくなり、全て自宅だけで完結してしまう未来もあるかもしれない。
まるで、自分がその時代に取り残されているような、自分以外のものがどこか遠くへ行ってしまうような感覚。この感情を辛いと言っていいのか、悲しいと言っていいのか、今の氷雨にはその答えを出せそうもない。
ただ、一つ。一つだけだが、言えることがある。
「あ、いたいた。氷雨! 待ったかな?」
「いいえ。私も今来たところですよ、緋那。それよりも今日は休みなのですから、思いっきり羽根を伸ばしましょう」
「そうだね。うーん、でもどこへ行こう? そういえばノープランだったよね……カラオケやボーリングはこの前に行ったし、なんだか遊び尽くしちゃった気分」
「それなら、近場の商店街などどうでしょう? 日本の古き良き昔ながらの食べ物や風情があっていいですよ」
「商店街かー。……うん、たまにはいいかもね! 結構久々な気がするし楽しめそう」
止まった時を動かしてくれる親友。彼女とこうして遊ぶのは1ヶ月ぶりだが、それでも、昨日のことのように接してくれて、同じ思い出と記憶を面白おかしく共有できる親友。その人さえいれば、どんな過去も未来も乗り越えられる気がするのだ。
「じゃあ、行こっか!」
「はい!」
例え、年を取って、おばあちゃんになっても。かけがえのない親友さえいればーーその思い出と記憶は決して色褪せないものになる。氷雨は緋那の屈託のない笑顔を見てそう確信した。
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