われは転生者

烏川 ハル

   

 深い森の中。

 これだけ樹々の緑が生い茂っていると、ここまで陽の光は届きにくい。街で空を見上げた時には、今日は気持ちの良いくらいの青空だったはずだが。

 だから常人には薄暗い環境だろうが、それでも俺たち冒険者にとっては、もう慣れたものだ。

 今日も俺は、相棒のレイチェルと共に、モンスター狩りハントに精を出していた。

「フレイム・ボム!」

 ちょうどレイチェルが、自慢の炎で目の前のスライムを焼き尽くした時だった。

「きゃああああ!」

 緑の中を轟く叫び。

「ポール!」

 レイチェルは俺と顔を見合わせようとしたらしいが、そちらを振り向くまでもなく、

「わかってる!」

 俺は、駆け出していた。


 声が聞こえてきたのは、ちょうど『回復の泉』のある辺りからだ。

 軽戦士のスピードを活かして、樹々の間を縫って走れば、すぐに目的地に到着。

 泉のほとりでは、赤い頭巾の村娘が、腰を抜かしていた。

 近くに落ちている手籠は、彼女のものなのだろう。だが、それを爪で突っついているのは、俺たち人間の二倍くらいの体躯の、灰色のモンスターだった。

 ベアーゴブリン。

 ゴブリンの亜種、中級レベルのモンスターだ。

 だが、この俺の敵ではない。

「ハッ!」

 気合一閃。

 俺の斬撃により、ベアーゴブリンは真っ二つ。

 おそらくモンスターには、俺のやいばのきらめきを目にする暇もなかったことだろう。

 少女は、俺が手にする剣――モンスターの血で濡れたやいば――に視線を向けて、本能的な恐怖を感じたようだが、それでも。

「あ、ありがとうございました……」

 助けられたことは、頭では理解しているらしく、俺に礼を述べる。

「どういたしまして。これも冒険者の日常さ」

 軽く返しながら俺は、サッと剣を一振り。ベアーゴブリンの血を拭い去った。


「おばあちゃんの具合が悪くて……。それで、この薬草が必要で……」

 少し落ち着いて、少女が事情を説明し始める頃には、レイチェルもその場に到着していた。

 女の相手は女に任せた方が良い。

 俺は近くの大木にもたれかかって、耳だけで話を聞く。

 なるほど『回復の泉』の近くでは、特別に効能の強い薬草が生えると言われている。おそらく泉の水を吸って育つからなのだろうが、そんな理屈は、この際どうでもいい。

「まあ、それは大変。わざわざ、こんな危険な森の奥まで……。あなた、おばあちゃん孝行なのねえ」

 レイチェルの言葉に、俺は同意の意味で頷いてみせた。俺の仕草は、視界の隅で、レイチェルにも見えていたらしい。

「じゃあ、森の出口まで、私たちがエスコートしてあげる」

「えっ? 助けていただいた上に、そんな……」

「いいのよ。どうせ私たち、適当にモンスター狩りハントしてただけだから」

 俺に了解を得ることなく、勝手に決めてしまうレイチェル。

 俺が彼女に逆らえないことくらい、彼女は承知しているのだ。

   

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