梅の花
モナムール
第1話
由太郎と美知枝は手を繋いで歩いています。
空を見上げますと、雪がはらはらと降り続いていました。
心まで凍えそうな寒さでした。
それだけお互いを温めるように、優しく手を握ったのです。
もう離さねえ。
そう由太郎は美知枝に囁きました。
ずっと一緒に。
そう美知枝は由太郎に囁いきました。
由太郎は生まれから醜い子でした。
顔には不気味な痣があって、ひどく歪んでいました。
その為に、周りから酷い虐めに合いながら育ちました。
美知枝はまるで正反対で、とても美しい子でした。
周りの空気さえ慄すような美しさを持って生まれたため、同世代から、大人にまで疎まれて育ちました。
ふたりとも貧しい孤児の子です。
由太郎はよく殴られ、蹴られ、ご飯を取られたりされました。
そのことを大人たちも知っていながら不気味な子だからと関わろうとはしなかったのです。
夜中に残飯を食い繋いで、寒い真冬に手を荒れさせながら大人たちにこき使われて、子供達に散々にいじめられて、なんとか生きてきたのです。
由太郎はそれでも怒りませんでした。
しかし、唯一に怒ったことがあります。
ある日。
美知枝がボールで遊んでいると、子供達がやってきてボールを取り上げてしまいました。
美知枝は返してと、叫んびましたが、周りは笑いながら囃し立てながらボールを次々に違う人に投げ渡す始末。
やがて、美知枝は泣き出しました。
それを知った由太郎は、手当たり次第に、涙を流しながら暴力を振りかざしました。
由太郎は実は喧嘩が強かったものですから、みんながボールなんて忘れて、泣きじゃくりました。やがて大人たちが駆けつけて、由太郎はひどく叱られました。
夜中に布を被って、お互いの温もりで寒さから守るように、美知枝を優しく抱きしめながら語りました。
「なあ、美知枝。オレは悪い奴だ。あいつらと同じように暴力を振るっちまった。結局、あいつらと何一つ変わんねえさ。
おまけは、きれいだなあ。オレたちは、二人に一人なんだぜ。おまえはオレが庇う。オレはその為ならどれだけ汚れたっていいんだあ。こんな寒さなんて大したこたあねえよなあ」
美知枝の心に、その瞬間に力強い火柱が上がりました。
そうして夜空に、輝く星となったのです。
どれだけ苦難の道を行くことになろうと、この兄と共に歩むなのだと強く、強く願いました。
しかし、ある日に、美知枝は売られることを告げられます。
噂に聞けば、それはもう酷い人間なんだと。
由太郎は崩れ落ちました。
そうして、わんわん泣き崩れました。
二人で逃げ出そうとしましたが、運悪く大人たちに見つかりました。
そして、大人たちに敵うわけもなく連れ戻されました。
3日が経ち、美知枝が殺されてしまったことを大人に笑いながら告げられました。
理由は、ただ美知枝が反抗的だからです。
由太郎の中で何かがぷっつりと切れました。
気がつけば、台所に行き刃物を手に取りました。
真夜中でした。
みんなの首を冷静に刺して回りました。
真夜中でした。
もはや誰の声もしない孤児院から由太郎は飛び出しました。
「美知枝....美知枝...美知枝...」
そう呟いて、真夜中の山をかけました。
そうして、
気がつけば、山の中で倒れてました。
起き上がると、美知枝が側にいました。
由太郎はがばっと起き上がって抱きしめます。
「おまえ、おまえ、ここにいたのかあ。寂しかったろう。怖かったろう。苦しかったろう。もう大丈夫だあ。にいちゃんがいるからなあ。」
二人は手を繋いで暗闇の中へと、消えて行きました。
誰もいない山の中を、梅の花が二枚だけ風に吹かれて飛んでいきました。
梅の花 モナムール @gmapyon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます