おいらも世界もオイル切れ

中川 弘

第1話 おいらも世界もオイル切れ


 週末、はしごに使って、我が宅の大いに茂った梅の木と花桃の木の枝を払いました。


 あの通販で宣伝している高バサミなるものを使って、その先についたノコギリをギーコギーコと言わせて、手首ほどの枝を払うのです。

 ノコギリの切れ味の鋭さで、少々、切り過ぎかと思うほど、枝を落としました。

 

 今度は、先だって、修理し、磨きをかけた斧の出番です。

 小枝を払い、太い枝を冬の暖炉の薪用に整えます。

 

 もう、夢中になって、楽しみました。


 そのおかげで、この一両日、身体中がギシギシと、悲鳴を上げているのです。

 きっと、我が肉体の節々に、若き日にあった、オイルのようなものが、すっかりと枯れてしまっているに違いないとそんなことを思って、ウッドデッキで綺麗になった枝ぶりを眺めながら、肩をさすり、脚を撫でているのです。


 私の身体のオイルの話はともかく、どうも、世間を循環して、何事も丸くおさめてくれるオイルの方も、このところ欠乏気味に違いないと思ってもいるのです。


 だって、そうでしょう。

 ワシントンで、中国副首相が、アメリカの担当大臣と笑みを浮かべて、握手をしている図を見れば、その後、アメリカが関税をかけて、数日後、中国が報復関税をかけるなんて、想像もできませんでしたから。

 二つの大国で、うまく話をまとめたかなって、記事を読まずに、写真でその成り行きを判断した横着者は、そう思ってしまっていたのです。


 オタクの国の懸念もわかりますが、我が中国はそんなことをしていませんと言っても、アメリカは、聞く耳を持ちません。

 関税ばかりではなく、中国企業の締め出し、中国人研究者への警戒、さらには、南シナ海で軍事的圧力をかけ続けているのです。

 

 これまでのアメリカの政治であれば、相手の思惑を内に蔵しつつ、そこは上手く立ち回って、世界に多大な影響を与えないように配慮があったと思っているのです。


 決定的に、相手がアメリカを愚弄しない限り、アメリカは大人の振る舞いをしてきたのです。


 私のような、野次馬からすれば、面白くもない政治的決断という美名で決着がついていたのでしょうが、今のアメリカは、どうも素人が、街中で、肩がぶつかったと言って、悪態をつく、そんな大統領のもとで政治を行っているように思えて仕方がないのです。


 だから、野次馬としては、事の成り行きは面白いのですが、どうもオイル切れのあのギシギシ感があるように思えてならないのです。


 日本だって、右に中国、左にアメリカを見ながら、難しい政治をしなくてはなりません。


 一衣帯水といって、最近は、笑みを浮かべて、握手を求めてくる中国ですが、その一方で、尖閣に公船を送り込んでくることはやめません。

 まさに、僧兵のごとく、鎧を僧衣の下に隠しての笑みだと思っているのです。

 日本と中国との間に循環するオイルは少々、サラサラとしすぎて、思うような成果が出ないのではないかと、ちょっと、心配をしているのです。


 どこかでエンストを起こすのではないかって。


 韓国や、北朝鮮に至っては、完全にオイル切れの感が拭えません。

 ロシアとの間も、日本からオイルを送り届けたのですが、向こうのシステムと合わなかったらしく、遮られてしまったようですし、そんなことを見ますと、日本という国は、大変な国々に囲まれていると、つくづく思うのです。

 

 せいぜい、好い気な大統領がやってきて、千秋楽に土俵上であの笑みを見せ、日本のヘリ空母に乗船して、日米の強固なる同盟関係を誇示するくらいが、オイルのありようを示してくれるのではないかと思っているのです。


 大統領が土俵に上がっても、株価は下がる一方では、なんともやるせないことです。


 そんな御託を並べて、いい気になっていた私ですが、港に行って、今日は沖にでも行ってみるかとエンジンをかけますが、ブスっブスっというばかりで、一向にかかりません。

 電源はきているからバッテリーが上がっているはずはなし、エンジンカバーを開けて、中を見ても、何が何やらわかるはずもなし、また、エンジンキーを回すも、ブスっブスっというばかりです。


 そうだ、オイルだと、やはりです、オイルが少なくなっています。

 きっと、これに違いない。

 新しいオイルが届くまで、沖に出るのは延期です。


 そういえば、このまま、経済が回らないと、消費増税も延期になるかしら、だって、米中の対立は、リーマンショック級だと言っているではないですか。


 いやはや、令和になったばかりなのに、世界はどこもかしこもオイル切れだと、一人、嘆いているのです。

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