第10話 手を引いて


映画のセットのような

クッキリとした

真っ青な空の下


認知症の母が

まだ辛うじて歩けた

頃に


房総半島の白浜の海岸を

ゆっくりとゆっくりと

手を引いて


散歩に歩いた日の事を

突然思い出した


何十年ぶりかの

海風が

たまらなく心地よかったのか


認知症になって以来

初めての爽やかな笑顔で


いつまでも海風に

顔を向けて微笑んでいた

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