Unlimited Linkage Online - 黒白 -
@koshi_anonyme
Prologue.黒白
「あの――
少女がその言葉を発すると共に手を伸ばし、自分の膝を枕にしている少年の頬を優しく突く。
それに対し少年は呻くような小さな声を漏らし、ぼんやりながらもゆっくりと
その表情は困っているかのように眉尻が下がらせつつも、恥ずかしさからか頬を赤く染めていた。
自分の状況を把握した少年は、途端に勢い良く上半身を起こし始める。
少女は見下げている頭を瞬時に軽く上げ、あのままでは頭突きとなっていたであろう攻撃を何事もなく回避した。
二人はとある一室のソファーに腰掛けている状況であり、辺りにその他の姿は見当たらない。
「その、なんだ……すまな――――」
「私の膝はどうでしたか?」
「…………へ?」
一先ず謝罪から入ろうとした少年の言葉は中断され、突拍子もない質問に奇声を上げることとなる。
その言葉の意味を正しく理解しようと頭を回転させようとするが、寝起きのためか、またはこういった状況に不慣れなためか、少年の思考は完全に停止していた。
「だから、私の膝はどうでしたか? 柔らかかったですか? 気持ちよかったですか?」
頭が回っていないという状況を理解している上で更なる追撃を浴びせる少女。
そんな少女の太ももは完璧と言わざるを得ない程の逸品である。
細すぎず太すぎずの枕とするのに適切な大きさ。
女性特有の筋肉質ではない心地の良い柔らかさ。
仄かに香る甘く優しい香り。
意識があったのは一瞬だったが、その全てを感じ取り、なおかつ鮮明に思い出せるほどに覚えている。
少年は自分に恨めしさを感じつつ、真っ赤になった顔を少女へ向けると、ニヤニヤとした笑みを浮かべていることに気付く。
「謝られるより、もっと別の言葉がいいです」
「えっと――ごちそうさまでした?」
「違います。馬鹿なんですか? 変態なんですか?」
先程とは打って変わって、酷く冷め切った眼が少年へと突き刺さる。
「ははっ、冗談だって。どれくらい寝てたんだ?」
「二十分くらいですよ。もう少し寝かせてあげたかったのですが、私の足がそろそろ限界を迎えました」
頭が乗っていた部分を軽く擦りながら答える少女――限界というのは痺れてきたということだろう。
少し短めのスカートに膝上までのニーハイを身に着けており、その中間地となる素肌を擦っている。
上下に擦っているためスカートが少しだけ捲れるが、見えそうで見えない絶妙なラインを保っていた。
少年は再び動揺しそうになるものの、いい加減落ち着くべきだとすぐさま我に返る。
「それはすまな――いや、ありがとな」
「はい、どういたしましてっ!」
少女はその言葉を待っていたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。
話もひと段落ついたこともあり、少年はソファーから立ち上がり、体を慣らすために伸びをする。
現在地は二人の自宅――実際に二人だけで住んでおり、二人が所持している家だ。
どちらも大人と呼ぶにはまだ幼い顔立ちであり、その歳でもう同棲をしているのかと思うだろうが、残念ながらゲーム内の話である。
VRMMORPG《Unlimited Linkage Online》、
二人の姿は本物の身体ではなく、ゲーム上のアバターであるものの、顔や体格は現実のものと寸分違わぬ造りとなっている。
ゲーム内で変更できる部位は髪と瞳の色くらいであり、髪の染色やパーマ、髪を結んだりといったことはできるが、実際の長さを変更することは不可能だ。
二人は一度顔を見合わせると、お互いに通じ合ったかのように指先を動かし始めた。
それぞれの視界にはシステムウィンドウと呼ばれるものが表示されており、ステータスやインベントリなどのキャラクター情報を確認できるものだ。
二人の姿は一転し、私服姿から戦闘服へと変わりゆく。
実際にその場で脱ぐなどといった行為をするわけではなく、全身を光のようなエフェクトが包み込み、それが無くなる頃には着替えが完了している。
飽くまでも光のようなものであり、眩しいと感じるものではない。
少年のアバター名は《
少しだけ伸びた黒髪には緩くパーマをかけており、装備の基本色も髪色に合わせて漆黒に統一されている。
いつも愛用している漆黒の剣を腰に携えている。
それに対となるよう少女――《
胸は大きくもなく小さくもなく、多少ダボダボとした服を着ても少し膨らみが見えるほどの大きさである。
白をベースとした衣装に魔法陣が描かれた手袋を両手につけている。
二人とも整った容姿をしており、傍から見たら美男美女カップル。
しかしながら、二人は付き合っているわけではない。
同棲しているものの、実際に寝泊まりするわけではないため、言ってしまえばただの飾りだ。
しかし、このゲームではカップリングシステムの最終目標地点であるため、他ユーザーから見れば付き合っているようにしか見えないのだ。
本人たち曰く、ゲーム仲間として一緒に過ごしているとのことだが、お互いを意識しているかどうかは別の話だ。
「さて、そろそろ行くか。今日の依頼は?」
「えっとー、《炎獄龍の討伐》ですね!」
「あのマップ暑いんだけどなぁ、次はもっと簡単なのにしてくれ」
「報酬がいいんですー。今はお金が必要なんですーー」
「それもこれも
「
「お金の備えが無くなっちゃ本末転倒だけどな……」
クロノは漆黒のマント、シロナは純白のマントを身に着けてフードを深く被ると、再びシステムウィンドウを操作して王都グランディアへと転移する。
王都グランディア――このゲーム内で一番大きいかつ、栄えている街であり、ほとんどのプレイヤーがここで待機をしている。
各レベル帯の装備・ポーション・雑貨などを販売しているNPC。
プレイヤー間で気軽に取引が行えるフリーマーケット。
その他にはパーティーメンバーの募集・ギルドの宣伝など、さまざまな事が行われている場所だ。
街の規模が大きいにも関わらず、王都グランディアへのワープポイントは一つしか存在していないため、必然的にその一ヵ所へと人が集まるわけだ。
なおかつ、周辺はベンチなどが置かれた広場になっているため、パーティーメンバーの募集やギルド宣伝には打ってつけの場所であり、先程まではいつも通り賑わっていた――――《黒白》の二人が来るまでは。
二人を包み込んでいたワープエフェクトが消えると共に、他プレイヤーは二人の姿を視認可能となる。
それと共に賑わっていたはずの広場は静寂に包まれた。
「《
周辺には百人以上は集まっており、本来であれば簡単に掻き消えてしまう程の小さな呟き。
しかし、誰が呟いたかすらも分からない言葉は全員の聴覚を刺激した。
先程とは空気が異なった騒めきが起こり、より一層騒がしくなったようにも感じる。
たかが二人のプレイヤーがなぜこんなにも注目を浴びるのか。
――――それは彼らがULO最強のプレイヤーだからである。
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