第35話 幕間・ウォルターが語るこの世界の話 フローレンス7大家

 皆さま、はじめまして。

 私はアルバート様とシュミット商会にお仕えする執事、ウォルター・ワイズマンと申します。普段は坊ちゃまの護衛や雑務のお手伝いをいたしております。


 本日は、フローレンス7大家について皆様にご説明するようにとの命を仰せつかりました。


 以前お坊ちゃまが少しお話いたしましたが、この世界はかつては魔法使いが支配していました。

 その後、魔法使いたちと我々普通の人間との戦争を経て、魔法使い達の王国は崩壊し、今に至っています。

 なお、その戦争の時に使用されたのが機械仕掛けの神といわれる、騎士の原型です。


 そして、戦争直後に作られたのがこのフローレンスで、その建国に力を尽くしたのがフローレンス7大家です。

 彼らはそれぞれフローレンスの各ギルドのギルドマスターなどをつとめており、強い影響力を有しています。

 また、7大家はフローレンスの議会において永世議員として地位を有しています。それ以外は民間から選挙により8名が選出されます。


 では順にご紹介しましょう。



 一つ目はローザ家。

 初代はフローレンス・アリアス・ローザ様です。ご覧になればお分かりかと思いますが、フローレンスという国名は彼女に由来しています。

 強力な魔法使いであると同時に博愛主義者でもあったそうです。戦争末期の泥沼になりそうだった折に、両陣営の仲裁に尽力し戦争を終結させる大きな役割を果たしました。

 その後、魔導士領に去った魔法使いとは袂を分かち、フローレンス建国に参加されたのです。


 ローザ家はコアの鉱山等の支配権を有しており、同時に議会の永世議長も務めています。

 現在の当主は若き6代目、フローレンス・サティアス・ローザ様です。お年は20歳半ばで、お若いですが政治家としては非常に優秀な方です。

 我々はあまりお目にかかることはありませんが、お優しい方であるとも聞いております。


 なおローザ家は女系の家柄であるようで、お子様は女性が多く、サティアス様も女性です。また魔法使いでもあるそうです。

 建国の英雄が女性であったこともあり、フローレンスでは働く女性は少なくありません。騎士の乗り手や護衛船員のような荒事をするような職業でも、能力があれば認められます。



 二つ目はメルカッツ家。

 ローザ様の親友の魔法使いであり学者であったそうです。初代はアナスタシア・メルカッツ様。

 メルカッツ家は学者の家系であり、アナスタシア学院という学校を設立しました。フローレンスには個人の私塾は多々ありますが、公式な学校というのはここだけです。

 入学は12才から可能です。入学するためにはかなり難しい試験がありますし、それなりの学費を要します。

 学内の競争も厳しいためか学院出身者は優秀なものが多く、法律、商業、農業、工業などの様々な分野で活躍しています。


 現在の当主はカテジア・メルカッツ様。こちらも女性ですね。アナスタシア学院の学長もお務めです。かなりの老齢ですので、じき当主の交代があるといわれています。



 三つ目はクレルモン家。

 初代はローザ様の恋仲といわれた魔法使い、アレス・クレルモンです。お二人は結婚はされなかったので、あくまで噂ですが。

 フローレンスでは商業分野に力を尽くし商業ギルドを設立。戦争直後から交易活動や物資の調達で建国初期に多大な貢献をされました。

 クレルモン商会というフローレンス屈指の巨大商会を持ち、7大家で最大の経済力を有しています。


 現当主はアベル・クレルモン様。40歳半ばくらいです。こういってはなんですが、非常に尊大な方でして、市民からの評判は芳しくありません。

 1年ほど前に、商業ギルドのギルドマスター選挙で、ギルド構成員が推薦した対抗馬のアルカード・フランベリという有力商人に敗れる、という波乱がありました。

 主要ギルドのギルドマスター選挙で7大家が追い落とされたのは歴史上これが初めてで、非常に大きな話題になりました。ディート様の言葉によれば、ゲコクジョウ、ということになるのでしょうか。



 四つ目はランペルール家です。

 初代は機械仕掛けの神をベースにして量産可能な騎士の基礎設計に貢献された技師である、ジオ・ランペルール様です。

 この方がいなければ、騎士がここまで普及することはなかったでしょう。

 非常に多才な方で、飛行船、初期の蒸気機関のみならず、楽器の設計までされたとか。

 工業ギルドの設立者でもあります。


 現在の当主はエルリック・フォン・ランペルール様。優秀な技師である反面、議会やギルド運営の実務面には無頓着な方です。その点ではギルドマスターから降ろされても不思議ではないのですが。

 実務面を妹君であるエレンディア様が補佐してられること、そしていろいろ言われつつも本人が優秀な技師であり、技術開発に理解があることなどもあり、工業ギルドのギルドメンバーからは支持されています。


 ディート様により偶然にも当商会とつながりが出来ました。



 5つ目はロートシルト家。

 初代は建国時に戦災の避難民や移住者を運んだ飛行船団長、キャンベル・ロートシルト様です。

 本人は無頼の飛行船乗りだったらしく、柄ではないといわれたそうですが、周囲の説得により7大家に加わられたそうです。建国後すぐに飛行船ギルドを設立し、空輸網の整備や、周辺の鉱山の調査に尽力されました。


 現在の当主はラファエル・ロートシルト様。50歳くらいとお聞きしています。

 ランペルール家とは逆に、ラファエル様は議会での政治に専念しておられまして、飛行船ギルドの実務は弟君のルイ様が行われています。

 若いころは飛行船航路の安全確保に力を尽くされ、騎士の乗り手の育成などにも熱心でした。ディート様が使われた乗り手の訓練施設もラファエル様がおつくりになったものです。



 6つ目はメイロード家。

 初代は戦争時の英雄で、機械仕掛けの神の乗り手であったイレギアン・メイロード様です。

 戦争直後の混沌とした時期に治安維持に尽力され、その後ランペルール家、ロートシルト家と協力してフローレンスの軍である騎士団を設立されました。


 現在の当主は20才半ばのトリスタン・メイロード様。フローレンスでも屈指の騎士の乗り手であり、同時に戦略家でもあります。お若いからでしょうか、大変に正義感がお強い方でもあり海賊狩りにも積極的です。

 メイロード家は初代が有していた機械仕掛けの神、ヴァルキュリエを今も保有しています。

 議会の許可が下りた時、メイロード家の当主のみが騎乗を許されています。

 現在の騎士では及びもつかない性能である、と言われていますが、ここ100年は稼働したという話はありません。


 メイロード・ラップ、といわれる騎士の乗り手によるレース競技を一年に一度行っておられます。

 ディート様は、なんだ、レースあるんじゃないか、俺もいずれ出てみるわ、といっておられましたが、自由騎士の名前のしれた方がエントリーされる上に、他者への攻撃も認めた非常に過酷なレースですので……ディート様でも入賞は至難の業でありましょう。



 7つ目はオーギュスト家。

 初代は、フローレンスの初期に移住してきた農民のリーダー格のヘンリー・オーギュスト様です。

 卓越したリーダーシップでフローレンスの農地開拓を先導されました。農業ギルドの創始者でもあります。学者としての実績もあったといわれており、様々な作物の普及を行われました。

 無類の料理好きでもあったそうで、農業ギルド直営のレストランを設立し、自分で考案した料理を出されたそうです。今もこのレストランは営業しており、農業ギルドがある島に行けば、食事を楽しむことができます。

 フローレンスの食事は他国のお客様から見ても美味であるそうですが、この方の影響は強いかもしれません。


 現在の当主は8歳のサーシャ・オーギュスト様です。先代が急な病で亡くなられ、一人娘であるサーシャ様が跡を継ぐことになりました。

 もちろん8歳では農業ギルドのギルドマスターや議員としての務めは果たせませんので、叔父のセバスティアン・オーギュスト様が諸事を代行されておられます。

 ただ、この方は、誠実な実務家ではありますが、良くも悪くも正直な方なので……海千山千の議員と渡り合ったり、ギルド内部の利害対立を裁いたりするのは難しいのではないかといわれています。



 このように、7大家はフローレンスの政治経済に大きな影響を持っています。

 当シュミット商会はこのたび、ディート様の偶然の縁により、ランペルール家とつながりが出来ました。喜ばしいことである反面、強力な権力は諸刃の剣。

 当家の発展の一助になってくれればと願う次第です。



 年寄りの長話をご清聴頂き、深くお礼申し上げます。


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