第1話 その時に願ったこと

 嬉しそうにアルバート様が笑って、ぎこちなく抱き寄せてくれた。体が触れ合う。

 でも。幸せな気持ちが胸に満ちた、口づけをしようとしたその時、なぜかわかった。この後なのが起きるかを……そして自分は何もできないことも。


 だから願った。この人を助けてくれる誰か。この人を守ってあげて。愛するこの人を。私の命よりも大事なこの人を。 


 ……ふいに耳元で風の音が聞こえた。


 ーーー


 最後に覚えているのは落ちていく感覚と近づいてくる緑の大地。顔を押すような冷たい空気の壁。何度引いても手ごたえの無いリードの握り。


 唸るような風の音より大きく、インカムから聞こえる叫び声が聞こえた。

 意味はわからなかったのは多分チェコ語だったからだろう。


 ……死にたくない、なにもなしとげないままに。

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