04話 再会!出会い!そして学校へ

「ありました! ほらここですわ」


 ピンク色をした、真っ直ぐで綺麗な長い髪の少女は、手書きの地図と目の前の建物を交互に見ると、安心したように言った。


「ここなのカー」


 しかし獣の耳と尻尾の生えた茶髪の少女は、まるで他人事のように答える。


「よかった⋯⋯。ちゃんと辿り着けましたぁ。さっそく中に━━あら!?」


 入りましょうと言いかけて、横にいるはずの少女がいない事に彼女は気づいた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ん? おかしいな⋯⋯。ここら辺のはずなんだけど⋯⋯」


 森を出て、すぐにヴァルキアは分かった。距離はあったけど、とにかく馬鹿でかくて目立ってたから。


 初めて森の外にあるこの世界を見た。


 とても美しく、これから始まる新しい人生に胸が高鳴った。


 途中、魔物に襲われたりもしたけれど、そこは師匠直伝の闇魔法、ダァァクダァァーックを使って蹴散らした。


 周りに人もいなかったので、思いっきり叫んで、師匠の動きまで真似しちゃったりなんかして、蹴散らした。


 何せ2年間毎日一緒に修行したからな。


 動きの再現度から魔法名の言い方まで、完璧に近い再現度だったと思う。


 そうして、首都ヴァルキアに辿り着きはしたのだが⋯⋯


「広すぎだろ⋯⋯」


 途中で武器屋の親父に学校の場所を聞きはしたが、どうやら迷ってしまったらしい。


 また誰かに聞こうなどと考えていると、後ろから馬鹿でかい謎の声が聞こえた。


「ご主人ーーーーーー!!!!!!!」


「へぶごぁっ!!」


 声のする方向に振り向いた途端、いきなり何者かに飛びつかれて、そのまま押し倒された。


「何処行ってター!? ナー!?」


「いってーな⋯⋯え? 誰⋯⋯?」


「何言ってル!? バニラだゾ。ご主人まさかバニラの事忘れちゃったカ⋯⋯?」


「バニラって⋯⋯え?」


 目の前の少女が着けている、見覚えのある首輪を見てハッとした。


       =バニラ=


「バニラ? え? お前あのバニラか⋯⋯? やっぱりお前もこっちに来てたんだな!? 何でそんな姿になっちまってるんだよお!?」


 転移して2年。俺は、獣耳尻尾あり美少女へと転生していた愛犬に再会した。


 少し涙ぐみながらも、嬉しくて抱き締める腕には、つい力が入ってしまう。


「分からンー! バニラ寂しかったゾ!」


「ごめんな⋯⋯。でもまた会えてよかった⋯⋯。言葉も喋れるのか? 凄いぞバニラー!!!!」


 俺はそのままの姿で転移したが、バニラは獣人として、この世界に転生していた。この世界に犬は存在していない為、そうなったのだろうか⋯⋯。何にせよまた再会できた事に、改めて師匠のユリアンロッドに感謝する。


 俺は久しぶりに会ったバニラの頭をわしゃわしゃと撫でてやった。


「うひ。うひひひひ!!」


━━あ、そんな笑い方だったんだ⋯⋯。 なんだかちょっと冷静な気分になった。


「バニラちゃーん!!」


 今度は、素晴らしい巨乳の少女が走ってこちらにやって来る。


「って⋯⋯あら? そちらのお方は? いやそれよりも、こんな所で何をやっておられるのですか⋯⋯?」


「ご主人ダ!!!!」


「ご⋯⋯ご主人⋯⋯ダ⋯⋯?」


「ダ!!!!」


━━これはまずい。誤解される。


「バニラ! ちょっとこっちおいで」


 俺は立ち上がって、巨乳ちゃんから少し離れると、バニラを手招きした。


「なんダご主人!? おやつカ!?」


「違うわ! いいかバニラ、お前は生まれ変わったんだ。もう犬じゃない。つまり俺はもう、お前のご主人じゃないんだよ」


「えっ⋯⋯」


 バニラのさっきまでの笑顔は一瞬にして消え、耳は垂れ、表情は死んでしまった。


「いや待て!! 家族じゃなくなった訳じゃない! お前は獣人になって、言葉も喋れるようになった訳だ! つまりー、だからそのー、これからはだな? 自分で自分の事をもっと決めていいって事が言いたかったんだよ!」


「よく分からんがバニラ⋯⋯ご主人がご主人じゃなくなるの嫌だゾ⋯⋯」


「くっさすがは元犬。凄い忠誠心だ! 可愛いやつめ」


━━元というか、見た目が変わっただけで記憶は引き継がれているのだから、バニラからしてみれば急に変える事など、無理なのかもしれない。


「分かった⋯⋯。ならバニちゃんの好きにしていいよ」


「ご主人!! バニラの事嫌いになったのかと思ったゾ⋯⋯!!」


「よしよし。俺がバニラを嫌いになんて、なる訳ないだろ?」


━━まぁ、愛犬が妹になったみたいなものだと考えよう。


「あの~⋯⋯」


 ハッ!━━完全に巨乳様の事を忘れていた!


「えっと、君は?」


「セリアと申します。バニラちゃんとは2年程一緒に暮らしていました。」


━━なるほど。この娘の家で世話になっていたのか⋯⋯


「俺はライです。有り難う⋯⋯。バニラは俺の妹みたいなものです。2年前に生き別れになってしまって、やっと再会できたんです。」


「セリア言葉も教えてくれたゾ! いっぱい遊んだし、バニラの友達ダ」


 何故彼女に言葉を教えてもらったのに、そんな変わった喋り方になってしまったのだろう⋯⋯


 そういえばこいつ、天の邪鬼というか何というか⋯⋯言われた通りには、まーやらないんだよな。


 お手って言ってんのに、伏せしたりしてたもんな⋯⋯懐かしい。


 バニラクオリティである。


「そっか⋯⋯。セリアさんほんとに有り難う」


「いえいえ! お気になさらないで下さい! 私も初めて獣人のお友達ができて、嬉しかったですから! バニラちゃんがよくお話していた、"ご主人"というのは貴方の事だったのですね!」


━━獣人の友達はバニラだけか


「あ、こいつのご主人ってのは気にしないで下さい。深い意味は無いので。獣人はそういうものですから」


「まあ⋯⋯。そういうものなのですね⋯⋯よかった」


━━ふ~何とか誤魔化せた。ごめんよ獣人。


「ってそうだ。学校行かないと」


「あら。ライさんも編入試験を受けに? では一緒に参りましょう」


「おおー。ちょうど道に迷っていたので、それは助かります」


「バニラも行くゾ?」


「それがいいな。しかしお前、魔法は使えるのか? 確か獣人って魔法には向いてないんじゃ⋯⋯」


「使えるゾ? セリアに教えてもらっタ」


「バニラちゃんは、"素質は"凄くあるのだと思います。魔力の量が驚くほど多いみたいなんです!」


━━そうか。こいつも俺と同じで、ユリアンロッドの魔法の影響だな⋯⋯


「格闘術?ってのの方が得意だがナ! そろそろ撫でるカ?」


 撫でられるのを待っていたらしい。


 バニラをわしゃわしゃと撫でてやると、セリアの案内の元、俺たちは魔法学校へと向かって歩き始めた。

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