第2話 ミカゲ班、ギスギスする

 一息つく間も無く、定時巡回の時刻になっている。特段緊急の通報も無いため普段ならばパートナー毎に散らばって担当区域を巡回する手筈である。

 しかし今日のミカゲ班は事情が違っている。パートナーが決まっていないコンがいるからだ。決定は追ってということだったが、それまでの暫定的な処遇を班長であるミカゲが決めなければならない。

 ミカゲは班員を呼び集めた。班員達は横並びに立ちミカゲの指示を待つ。コンが入ったことで一時的に七名になっている。

 ミカゲとパートナーを解消すると申請したウォルターが口火を切った。

「自分はトバイアス、クレイグの組に入ります。コン軍曹はミカゲ少尉と組まれるがいい」

「勝手に決めるな。いつお前が班長になったんだ? ウォルター」

 ミカゲが厳しい口調でウォルターの言葉を否定すると、彼は元々険しい眉間を更に強くしかめた。ここ数日の諍いで二人の関係は決定的に悪くなった。そのことは班員も皆知るところであるため、緊張した空気が流れる。

 その空気を感じ取ってか取らないでか、今度はコンが口を開いた。

 先程作戦会議室で聞かせたのと同じく、飄々とした響きである。

「私は別に構いません。ミカゲ少尉とお話ししたいこともありますし」

 微笑みながらの発言にミカゲは面食らう。と同時に先刻の失態を思い出してばつの悪い気持ちがする。班員の前で言い出さずとも良いではないか。

 そんな中、本来ミカゲ班唯一の女性班員であるヘザーの目が奇妙な輝きを湛えているのに気付いたのは、彼女のパートナーであるネイトだけであった。ネイトは肩をすくめる。

 気を取り直したミカゲはコンの前に立ち確認する。

「コン軍曹、役割は? 主に何を用いられるか」

「前衛を担っておりました。主要な使用魔法は攻撃魔法、属性は炎、風であります。多少ならば補助、回復も」

 ミカゲは軽く頷く。攻撃主体ならウォルターと同じタイプではある。

「詳しくは後程個人資料を読ませてもらおう。攻撃特化なら…」

「おひとつ、付け加えさせて頂くと」

 ん? とミカゲが眉をひそめる。

 コンは何気ないような表情で言葉を続けた。

「拳術を用います。他に棒術も」

 班員達が怪訝な顔をして彼女を見る。ミカゲはふん、と鼻を鳴らして踵を返した。振り向かずに手を振って指示を出す。

「ウォルターはトバイアス、クレイグ組と共に行動、ネイト、ヘザーは通常通り、コンは俺と来い」

 全員が了解、と声を上げて動き出す。平時各組が担当している区域を見回るために銘々箒を飛ばし出発した。

 ミカゲも箒に跨り、コンが付いて来るのを横目で確認した上で飛び立った。


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