『終末にはオムライスが食べたい』

以星 大悟(旧・咖喱家)

プロローグ

 この世界は『何か』に太陽が飲み込まれてしまった世界です。

 この世界は『あれ』と『それ』と『ヤミ』呼ばれる奇怪な存在が徘徊する世界です。

 この世界は狂った茜色と『闇夜』に染まった世界で終末を生きる人々の多くは、精神に異常をきたして次々とそれぞれの選択の末に終末へと至り、生き残っている人は殆どいない世界です。


 かつてここは観光地として栄えていた港町です。

 古い街並みと新しい街並みが無秩序に織り成された混沌とした港町で、有名な坂の街のような坂道もあれば、目と鼻の先の島を繋ぐ橋と遠くの島まで続く大きな橋の掛かる造船所や新しい倉庫に古い倉庫が海岸線に並ぶ。

 とても奇妙な街並みで、それ故なのか今の世界になっても昔と変わらない姿がとち狂ったように綺麗に馴染んで、人々の心を何よりも狂わせて今この町に生きているのはきっと彼だけです。


 他の人達が何処へ行ったのか彼は知りません。

 知ろうとも思いません。

 興味は無く興味もなく、何より誰かを気にしている暇がないからです。

 週末には食料の調達の為に住処を離れて商店街に下りて、時には遠くの街まで足を運んで定期的に補充される食料と、僅かばかり取り残された食料を漁って彼は生きています。

 生きてしまっています。


 死ぬ気になれず死ぬつもりもなかったので彼は必死に足掻いて生きています。

 いつか自分に訪れる終末に怯えながら今日も週末にオムライスを食べる為に。

 彼は何時もこう言います。

 誰も聞いてくれなくてもはっきりと言います。

 ですが誰の耳にも届きません。

 そんな世界です。

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