下手
「大丈夫! 最初は下手でも上手くなるよ!」
あの励ましの言葉がどうしようもなく私の心を傷つけた。
ちょうど、小学校高学年ごろのことだ。
音楽の授業で合奏をやることになった。楽器なんてろくに弾けない私だ。ピアノなんてできないし、弦楽器も怪しい。だからタンバリンに手を出した。
CDで曲を流す。流れてくる音楽に合わせて、タンバリンを叩く。いい気になったのを思えている。リズムに乗れている。うまくつかめている。ひょっとしたら才能があるんじゃないかと。
なお、そんな感覚はあっけなく打ち砕かれた。
「ちょっと止めて」
途中で静止が入る。
相手の女子は硬い目でこちらを見ていた。
なんのことかと見つめ返す。
「全然合ってない。遅れてる」
容赦のない指摘。
ショックを受けたのを覚えている。
唖然とした自分に彼女は言った。
最初は下手でも上手くなると。
それは本当の意味で容赦がなかった。
下手だと気づいていないところに突きつけられた残酷な真実。
冷静に考えるとなんてことはないのだ。ただ自分が下手なだけだった話。それをうまくいっていると思いこむなんて、ふざけている。
どうだっていいのだ。どうせもう二度と音楽には触れないのだし。
ああ、だけど。
仮に演奏をもう一度するとしても、タンバリンには触れたくないな。
なんとなくそう思った。
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