半分くらいは一口サイズの短編集

白雪花房

1000字以下 もしくは素材

☆終わった想い

 短い恋だった。

 あれほど激しく燃え上がっていたのに、全て灰。

 今はすっかり冷めている。


 あの人が悪いんじゃない。

 彼はそのままでよかったんだ。

 ついていけないと切り捨てたのは私の事情。

 別れを告げたのはこちらのほう。

 もう耐えられない。あきらめてしまっただけのこと。

 きっぱりと背を向けたはずなのに、なにもかも失った後になって、思い出の残像へ手を伸ばしたくなった。


 消えた陽だまりが穴を開ける。

 消えた陽だまりが私に現実を突きつける。

 消えた陽だまりが闇にかすんで見えなくなった。


 輝く星は二度と掴めない。

 二度と。

 二度と。

 二度と……。


 繰り返し体の内側でつぶやいた言葉。

 今はすっかり洗い流されている。

 胸を覆うあいまいな空虚感。

 まるで大切なものがこぼれ落ちてしまったかのよう。


 これでよかったのか。

 本当に諦めてよい執着だったのかと。


 私は彼を夢に見る。

 霧がかった輪郭が、薄暗がりの向こうへ去っていった。

 ふっと息を吐けば消えてしまうような想いだけど。

 それでも私の底に留まっている。


 あの人への情は儚いもの。

 移ろい、消えてゆくだけ。

 その感覚が愛おしく、尊い。


 夢を見させてくれてありがとう。

 大切な時間を与えてくれてありがとう。

 もっと一緒にいたかった。

 同じ時間を共有したかった。


 波が引くように遠ざかってしまった記憶。

 湿った白い砂浜の縁に、私の心は残っている。

 今はただ脳内の色せた写真をめくりながら、淡い感傷がこみ上げてくるのを待つ、それだけ。


 もう終わった。

 どれほど輝かしい戯劇であっても幕が閉じれば、置いていかれるだけ。


 窓の外では乾いた風が吹き、枯れ葉が散った。

 寂しさは遠く、押し流される。

 それでもあと少しだけ、かすかな余熱に浸っていたい。

 淡い感傷に身を預けて、彼方へ想いを飛ばす。

 薄青色に明けていく空に希望を託すように。

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